関東甲信と東海地方が18日に梅雨明けし、富士山は夏の登山シーズンに入った。今年から「弾丸登山」を防ぐための新ルールが山梨県側で導入された。徹夜で山頂をめざす弾丸登山は、遭難事故の危険がともなうが、これまでは注意喚起に限界もあった。夜間に半日に及ぶ通行禁止の時間帯を設定した狙いと、その効果を探った。
富士山には静岡県側と合わせて四つの登山ルートがあるが、登山口にゲートが設けられたのは最も利用者数の多い山梨県側の吉田ルートだ。環境省によると、昨年は富士山に登った22万人余りのうち、6割超の約13万7千人が吉田ルートを使った。
山梨県は吉田ルートの登山口となる富士スバルライン五合目にゲートを設置した。混雑緩和のため、7月1日の山開きから通行許可人数を1日4千人に制限。午後4時から朝3時までは閉鎖している。
通行時には通行料2千円を徴収し、支払った人には目印の黄色いリストバンドを渡す。「通行予約システム」のウェブサイト(https://www.fujisan-climb.jp/info/20240510_yoshida_trail_reservation.html)を通じて、事前に通行予約と料金支払いをしておくこともできる。
強行スケジュールの危険性
弾丸登山とは、日の出の時刻(午前4時半~5時すぎ)までに山頂に着き、「ご来光」を眺めようと、登山口を前夜に出発して徹夜で歩くことだ。
だが、標高3千メートルを超す富士山は真夏でも、夜間から早朝にかけては冬のような寒さになる。天候も変わりやすく、風雨が強まると事故の危険が増す。強行スケジュールのため体調を崩しやすく、高山病のリスクも高まる。
今年は山開きの前後を含めると、既に複数の死亡事故が発生している。弾丸登山ではなくても「誰でも簡単に登れる山」とは言い難い。
ゲートの通行禁止時間帯について、山梨県は「山頂でご来光を見るには、どうしても山小屋に泊まらなければならないように設定した」と説明する。
吉田ルートの山頂までの所要時間は標準的な速さで6時間ほど。閉鎖時刻の午後4時にゲートを通過すると、夜10時ごろには着く計算だ。日の出時刻まで6時間以上待機しなければならず、通常は山小屋に宿泊すると踏んでいる。
一方で、午前3時の開門時に通過した場合、日の出までは1時間半から2時間ほどしかない。その間に山頂に到達するのは、よほどの健脚者でも難しいと考えたという。
ちなみに、ふもとの山梨県富士吉田市から山頂までを駆け上がるレース「富士登山競走」の2023年の優勝者のタイムは2時間41分31秒。5合目から山頂までは約1時間19分かかった。
登山道でシートにくるまって寝る人も
県によると、山開きの今月1日から15日までのゲート通過者は2万8245人を数え、1日平均は1883人だった。また、6合目の通過者数を数えている地元の富士吉田市によると、1~15日の通過者は2万5384人だったが、このうち午後5時~翌午前3時に通過した人は1114人で、昨年の4401人から大きく減少した。市は、宿泊なしの弾丸登山を試みる人は大幅に減ったとみている。
「規制の効果はたしかに表れていて、全体的に夜は静かになった」と山小屋関係者も言う。それでも、ゲート通過者が3千人近くになった13日の土曜日は少々様子が異なった。「弾丸登山のためのツアーが実施されたとみられ、登山道でシートにくるまって寝ている人が40~50人いた」と話す。屋外での長時間の待機もいとわない登山者が、少数ながらいるようだ。
静岡県側の3ルートでも、日程やルート、宿泊予約の状況などを登山者がインターネット上で登録する「事前登録システム」(https://www.fujisan-climb.jp/info/20240605_2024shizuokaanzentaisaku.html)の運用が始まった。これも弾丸登山の防止をめざしている。各ルートの登りの標準的な所要時間は、富士宮ルートが5時間、須走ルートが6時間、御殿場ルートが7時間となっている。
山小屋の宿泊定員減少 「弾丸」増加に影響か
弾丸登山スタイルは最近にな…