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完食を求められる給食の時間がつらく、学校に行けなかった時期があるという加藤菜々子さん
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 全国の保育施設で昨年、完食の強要や、給食を無理やり口に入れるなどの不適切な指導が相次いで発覚した。完食指導は子どもの心に傷を残すこともある。

 神奈川県の会社員、加藤菜々子さん(26)は小学生のころ、先生から「全部食べなさい」と言われるのが苦痛だった。もったいないという気持ちはあるのに、小食で量がさほど食べられなかった。

 「残したら怒られる。どうすれば残したことがばれないか」。パンはそっと隠してトイレに捨てた。ご飯はおかわりをするふりをして、入っていた元のコンテナに戻した。同級生がシイタケを食べ残し、掃除の時間まで席に座らされて吐いたのを見て、自分もそうなったらどうしようと不安が募った。

 「おなかがすいていれば完食できるのではないか」。朝食をハム2枚だけにして給食に臨んだが、無理だった。

 小学3~5年ごろには、給食の時間から逃れたくて「おなかが痛い」などと理由をつけて学校を休んだ。

 中高時代はあまり困ることはなかったが、大学生になったときに「異変」が起きた。

 新入生の歓迎会や友人同士のランチ。外で食事する機会が増え、ふと学校時代の給食の緊張感がよみがえってきて、食事がのどを通らなくなった。家での1人の食事は問題なかったが、大人数や他人がいる食事の場を避けるようになった。

 ネットで調べ、「会食恐怖症」を知った。

 杏林大の田島治名誉教授(精神医学)によると、会食恐怖症は一般的に家族以外の人と外で食事をすることに強い不安を感じ、その不安を避けようとすることで友人関係や恋愛、仕事などに影響が出る状態が半年以上続く。社交不安症(SAD)の一つに分類されるという。

 加藤さんは精神科に何回か通った。社会人になったいまでも、大勢の食事の場ではまったく食べ物に手をつけられないこともある。会食恐怖症で苦しんでいる人もいることを多くの人に知ってもらいたい、という。

 摂食障害に詳しい独協医科大埼玉医療センターの作田亮一教授は「給食での一律の指導をきっかけに摂食障害になる子どもが少なからずいる」と指摘する。

 「時間内に食べないと指導される」とあわてて食べてのどをつまらせた経験や、ほかの子どもが急いで食べて嘔吐(おうと)してしまった姿を見るといった経験などがきっかけになるという。作田さんは「子どもの多様性に配慮した給食指導が必要ではないか」と話す。

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