山口県岩国市の第三セクター錦川鉄道が岐路に立っている。運行する錦川清流線が開業から赤字続きのため、市が存廃を検討している。沿線の利用者からは、存続を望む声が強い。市は年度末にまとまる報告書を受け、来年度にも結論を出す。
岩国市が錦川清流線のあり方見直しに着手したのは、2023年5月。副市長をトップにした検討プロジェクトチームを立ち上げた。県や錦川鉄道の代表者と有識者らでつくる会議体とともに、協議してきた。
今年11月14日の3回目の有識者会議では、岩国市が具体案を示した。
市によると、提示したのは、錦川清流線をいまのまま維持して全線を存続させる▽鉄道の運行・管理方法を見直して全線を存続させる▽路線の一部をバスに代替させて存続させる▽全路線をバスに代替させて廃線にする、という4案だった。
市はあり方見直しに着手する際、「『廃線ありき』ではなく、ニュートラルな立場で様々な方向性について、2年かけて検討する」との考えを示している。
有識者会議は次回、来年1月31日の会合で報告書のたたき台素案を示す方向。同年3月をめどに、4案ごとの収支の試算や利点・欠点を報告書にまとめる。市は来年度以降に4案から1案に絞る方針という。
錦川清流線の存廃議論が持ち上がった背景には、同社や市の財政事情がある。
錦川清流線は開業以来、赤字が続いている。沿線の過疎化、少子化が進むにつれて利用者が減ったのが主因だ。自家用車の普及も響き、開業直後の1988年度に58万4170人だった輸送人員は、2023年度には13万643人に減った。
岩国市は錦川鉄道の赤字を補う目的で、鉄道事業以外の収入源を模索してきた。
13年には岩国城とふもとを結ぶロープウェーの指定管理を同社に任せ、同時に錦帯橋の料金所業務も委託した。
また、本業のてこ入れにも着手してきた。
17年に本社のある錦町駅舎をリニューアルしたほか、19年には新駅「清流みはらし駅」を開業。地酒を列車に揺られながら堪能する利き酒列車や、高架やトンネルが残ったまま放置されていた岩日北線の路盤を活用したトロッコ遊覧車「とことこトレイン」の運行を始めるなど、全国各地から注目を集めた。
それでも、鉄道事業の赤字分を補うには至らず、県や岩国市、住民らが拠出する鉄道経営対策事業基金を取り崩してきた。ただ、基金の残高は、同社設立時の6億6190万円から減り続け、23年度は3378万9千円になっている。
赤字額は、ついに17年度に1億円の大台を突破した。基金の取り崩しとは別に、岩国市は市の借金にあたる過疎債を起債するなどして、急場をしのいできた。
しかし、沿線人口が上向く可能性は今後も低いなか、さらなる市の財政支援が必要になる見通しのため、市が鉄道の存廃を含めた検討に入った経緯がある。
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錦川清流線をどうすべきか。岩国市が今年5月、沿線自治体に住む中学生以上の4500人を対象に行ったアンケート(郵送)からは、存続を願う声が根強いことがわかる。アンケートには、2086人(46.4%)が回答した。
同線について、「現状での存続が望ましい」と「現状を考えると、今後の方向性の検討はやむを得ない」の二択で尋ねた。「存続」50.8%、「やむを得ない」49.2%という結果だった。
アンケートからは、岩国市街から離れた地域に住む鉄道利用者ほど、「存続」が多い現状が浮かんだ。沿線の駅から2キロ圏内に住む回答者のうち、市北部の錦・美川地区は「存続」が6割を超えた。市中部の北河内・南河内・御庄地区でも「存続」は6割弱にのぼった。
一方、駅から2キロ圏内でも、岩国市街の回答者は「やむを得ない」が過半数となり、「存続」が半数以下だった。駅から2キロ圏外では「やむを得ない」は6割超に達した。
年齢別にみると、24歳以下の若年層は7割近くが「存続」を選んだのに対し、中高年層の「存続」は半数以下だった。75歳以上は過半数が「存続」と回答した。
錦川清流線を残そうと、住民らでつくる「錦川清流線を育てる会」は29日、岩国市錦町で「We love 清流線 再決起式」を開く。
育てる会の堀江泰会長は「赤字でも行政に面倒を見ていただいていることには感謝している。状況が厳しいことはわかっているが、沿線ではない市民の方にも理解してもらおうと努力している」と話す。
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〈錦川鉄道〉 国鉄の民営化にともない、山口県や岩国市といった沿線自治体などが出資する第三セクター方式で、1987年4月に設立。同年7月から錦川清流線を開業し、川西―錦町間(13駅、32.7キロ)を運行する。旧国鉄時代は岩日(がんにち)線と呼ばれた。鉄道事業のほか、バスや遊覧車「とことこトレイン」の運行、国の名勝「錦帯橋」などの受託事業を行っている。