自民党総裁選の開票後、他の候補らと手をつなぐ岸田文雄氏と石破茂氏=2024年9月27日午後3時40分、東京・永田町の党本部、岩下毅撮影

 日米で政治の指導者が相次いで自ら身を引いた。再選を目指していたバイデン氏は大統領選から撤退し、ハリス副大統領が民主党候補に。日本では岸田文雄首相が退陣を表明、石破茂氏が自民党新総裁に決まった。権力者の引き際は難しい。政治の権力移行のあり方を長年観察してきた政治学者・東京大教授の牧原出さん(56)に、政治の世界の「引き際」はどうあるべきか、聞いた。

 ――岸田首相の退陣表明(8月14日)は突然の出来事でした

 自民党の裏金問題への世論の反発は根強く、内閣支持率だけでなく政党支持率も下がり、粘った岸田首相も最後は退陣表明に追い込まれました。キーワードは「刷新感」ですから、少し引いてみれば、党の体質を刷新することなく「刷新した感じ」を国民に与えること、つまり政治資金に甘い党のあり方の本質を否定せずにトップの顔をすげ替えることが目的でした。自民党の「変革」を望む民意との間に大きなズレがありました。

 ――旧安倍派の裏金問題が明らかになり、岸田首相はいち早く自派閥の解散を表明し、他の派閥の多くも追従しました。これは自民党の体質を根本的に変えようとする一手ではなかったのでしょうか?

 自民党がつぶれかねない、支持を少しでもつなぎとめなければという危機感から一気に決断したのは間違いない。ただ、裏金問題を抱えた議員を自民党が率先して調査し、厳しく処分したわけではないし、岸田首相が責任をとり辞任したり政権交代が起きたりしたわけでもない。むしろ裏金問題を隠蔽(いんぺい)するための派閥解散だったという見方もあります。

 そもそも、岸田政権の支持基盤は安倍晋三政権や菅義偉政権当時とそれほど変わっていません。2021年の岸田政権発足時に幹事長を実力者の二階俊博氏から甘利明氏に交代したときのほうが刷新感がありました。岸田氏は結局、今回の総裁選で旧派閥リーダーとしての影響力を行使したわけですから、派閥の存在が完全に解消されたわけではない。

 ――なぜ今の自民党は、本当の意味での刷新が難しいのでしょうか

 長期政権を率いた安倍元首相は20年に退陣しましたが、存命なら3度目の首相就任を目指していたことでしょう。そのため、安倍氏の政治を刷新する力を持つ有力な後継候補の芽が育っていませんでした。例えば、有力な後継候補が務めることが多い財務相を、安倍政権やその「居抜き」で主要閣僚を留任させた菅政権で長く務めたのは元首相の麻生太郎氏でした。小泉純一郎氏が谷垣禎一氏、中曽根康弘氏が竹下登氏を蔵相にすえたようにして後継候補を育てなかったわけです。

 ――安倍氏や菅氏の首相退陣と岸田氏の引き際はどう違うのでしょうか

 ボロボロになり政治生命を完…

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