「『聞く力』はあっても、『変える力』はなかった」。9月の自民党総裁選に立候補せず、同月末の任期満了で退任すると表明した岸田文雄首相を、そんなふうに評する人がいる。
小野春さん。子育てしている、子育てしたいLGBTQが緩やかにつながる「にじいろかぞく」の共同代表で、「結婚の自由をすべての人に」と訴える同性婚訴訟の原告でもある。
パートナーの西川麻実さんと東京都内で暮らす。ともに50代で、連れ添って19年。お互いに異性と結婚していた時の子どもがいる。2人で働きながら子育てをして、3人の子の成長を見守ってきた。
「家族観や、価値観や、社会が変わってしまう」
そんな小野さんが、首相には「変える力」がないと感じるようになったのは、国会での答弁がきっかけだった。同性婚の法制化をめぐり、2023年2月1日の衆院予算委員会で、こんなやり取りがあった。
立憲民主党の西村智奈美氏「総理は、我が国の家族のあり方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要すると答弁している。(同性婚に)反対なんでしょうか」
首相「極めて慎重に検討すべき課題である」
西村氏「極めて慎重な検討を要するという形で逃げ続けるのは、ひきょうだと思う。いつまでに検討するのか、明言してください」
首相「全ての国民にとっても、家族観や、価値観や、社会が変わってしまう課題です。だからこそ、社会全体の雰囲気にしっかり思いを巡らした上で判断することが大事だ」
同性婚で「社会が変わってしまう」――。首相の答弁に、SNSでは「すでに社会は変わっている」「いつまでも変わらないのは政治だけ」「G7で(同性カップルの権利を)認めていないのは日本だけなのに」と大きな批判の声があがった。
小野さんらは岸田首相の言葉に失望しながらも、思いを伝える手紙を届ける活動に取り組みます。首相秘書官による差別発言もあった岸田政権。当事者の現在の思いとはーー。
「聞く耳」、岸田さんなら
小野さんも「考える気がない…