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 観客の眠れる思考を、その演出は常にたたき起こす。作品を手がけるたび、世界に論争を巻き起こすオペラ演出界の巨匠、ペーター・コンビチュニーが今月、リヒャルト・シュトラウスの傑作「影のない女」(東京二期会、独ボン歌劇場共同制作)を新演出、世界初演する。

 「時代に応じて装いを変えることで、時代が変わっても変わらない人間の本質を浮き彫りにすることが、オペラ演出家の仕事」。来日のたび、そう繰り返す。これまでも「サロメ」「皇帝ティトの慈悲」「エフゲニー・オネーギン」など、数々の話題作を世に放ってきた。

 「オペラという芸術を、一部のコアなファンの特権区にしたくない」。人間を知るための気付きの宝庫であるオペラという唯一無二の文化を、未来へ。そんな悲願がある。

 その演出は常に、前時代的な男性優位社会への異議申し立てを鮮明にしてきた。2006年のシュツットガルト歌劇場来日公演「魔笛」では、「男が女を導いてやらねばならない」と語る最高権力者ザラストロに、ヒロインのパミーナが唾(つば)を吐きかけていた。

 「影のない女」という作品そのものも、そんな「魔笛」へのオマージュを想起させる。権力者(皇帝)が冥界の女性(皇后)に恋をする。皇后は人間ではないため、影がない。本作で影は、子を宿す子宮の暗喩でもある。

 皇后の父である冥界の王カイコバートは怒りにかられ、12カ月以内に子供ができなかったら皇帝を石にするという呪いをかける。皇后が子を宿すには、どうしても影が必要だ。

 乳母のささやきで、皇后は金を積み、人間から影を手に入れようとする。ターゲットとなったのは、なかなか子供が授からない一組の夫妻。人柄の良い夫は、障害のある3人の弟の面倒をみながら働き、妻を愛し、子供の誕生を待ち望んでいる。しかし、妻は妊娠できない現実などに心をさいなまれ、夫につらく当たるようになる。

 乳母と皇后は、妻に浮気をけしかけ、夫との仲を裂き、影をもらおうともくろむ。しかし、「他人の幸福を奪ってまで幸せになることはできない」という皇后の改心により、奇跡のハッピーエンドが訪れる――。もともとは、こんな筋書きだ。

 しかし、コンビチュニーは喝…

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