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再販された「きり絵画文集 原爆ヒロシマ」=潮書房光人新社提供
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 80年前の原爆投下直後の広島で救援活動にあたった兵士が、実体験を描き残した切り絵画文集がある。絶版状態だったが、6月に43年の時を超えて再版された。神戸の市民団体が切り絵に朗読をつけた動画をSNSにアップしたところ、出版社の目にとまり、実現した。

絶版本を保管、温め続けた再版への思い

 再版されたのは、兵庫県養父市出身の寺尾知文さん(2000年没)が1982年に出版した「きり絵画文集 原爆ヒロシマ」。寺尾さんは終戦直前の1945年6月に広島の暁部隊に配属された。8月6日の原爆投下直後、救援のために広島市中心部に入り、被爆した。

 寺尾さんは生前、「自分が原爆との関わりを持っているという事実から、ひたすらに遠ざかろうと努めていた」という。しかし、次第に被爆した兵士たちの実態を伝えなければという使命感が芽生え、「この目で見、この耳で聞いた原爆の図を、後世に描き残しておこう」と切り絵用の刀をふるった。「原爆ヒロシマ」が出版されたのは、原爆投下から37年後のことだった。

 出版元の潮書房光人新社(東京)の編集部員・坂梨誠司さんは、30年以上、絶版状態にあった「原爆ヒロシマ」を保管していた。

 被爆経験を描いた作品はたくさんあるが、切り絵は珍しい。凄惨(せいさん)な状況を黒と白のツートーンであらわす切り絵ならではの迫力があり、「何とか残しておくべきものではないか」「いつかチャンスがあれば、日の目を見させたい」と温めてきた。

「最後のチャンス」

 だが、出版から時間が経ちすぎたことから、著作権者と連絡がとれない。「原爆投下から80年を迎える2025年が最後のチャンス」と思いを定め、ネット検索をしていると、「原爆ヒロシマ」を題材にしたユーチューブ動画を見つけた。

 制作したのは広島女学院中高…

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