旧優生保護法(1948~96年)の下で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、聴覚障害のある名古屋市の尾上敬子さん(74)と夫の一孝さん(77)が国に損害賠償を求めた訴訟は15日、名古屋高裁で和解が成立した。
和解は、旧法を立法時点で違憲とした7月の最高裁判決を受けて、原告・弁護団と国が9月に調印した合意に基づくもの。弁護団によると、同種の訴訟では名古屋高裁が全国最後という。
法廷で朝日貴浩裁判長は、国は責任を自覚し、被害者の心身に長年多大な苦痛を与えてきたことを反省して謝罪する▽国は優生思想や障害者に対する偏見差別を根絶し、すべての個人の尊厳が尊重される社会の実現に最大限努力する▽慰謝料を敬子さんと一孝さんにそれぞれ1300万円と200万円、弁護士費用、遅延損害金を支払う――などの和解条項を読み上げた。
2人は1975年に結婚。子どもを生みたいと強く願っていたが、同年に敬子さんは不妊手術を強制された。それ以来、子どもや手術の話には一切触れず、生活を続けてきた。
2022年、国を相手に提訴したが、差別や偏見を恐れ、会見では顔を出さずに仮名で訴えた。しかし、途中から「まだ被害を打ち明けられない人たちのために」と顔と実名を明らかにすることを決めた。
敬子さんらは、「被害者で心にふたをしたままの人たちがたくさんいる。被害を言い出せない人が安心して支援を受けられる環境が必要だ」と訴えている。(奈良美里、渡辺杏果)