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インタビューに応える「“人間と性”教育研究協議会」代表幹事の水野哲夫さん=zoom画面から

 学校に産婦人科医らが出向いて性にまつわる講演をする動きが各地でみられる。背景には、教員が性教育に積極的に取り組めていないことがある。40年以上にわたり性教育を実践してきた一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会」代表幹事で、元大学・高校教員の水野哲夫さんは「外部講師の出前授業だけでは積み重ねになりにくい」と指摘する。

 ――なぜ学校現場は性教育に消極的なのでしょうか。

 2000年代に性教育バッシングが起き、全国的に学校現場が萎縮して性教育の取り組みが鈍くなりました。最も激しかったのが、東京都立七生養護学校(当時)へのバッシング。学校での実践を都議が非難し、都教育委員会は教材を没収し教員らを厳重注意しました。教員らは都議や都側に対して損賠償を求めて提訴。賠償命令が最高裁で確定した13年ごろを境に、外部講師を派遣する取り組みが目立つようになった印象です。

 中学校の保健体育の学習指導要領には「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という、いわゆる「はどめ規定」がありますが、外部講師は学習指導要領にとらわれません。学校現場が性教育に及び腰ななか、一部の教員や行政職員らの「最低限の知識を子どもたちに身につけてもらわないとまずい」という切迫した思いから外部の力を借りる取り組みが広がったのだと思います。

 ――地域によって取り組みにバラつきがあります。

 秋田県のように行政主導で取り組み始めたケースもありますが、多くの地域では医師会や助産師会など外部からの働きかけによって始まっています。セクシュアリティーや性の安全について学ぶ機会の不平等が生じている点は問題です。

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 ――「外部講師頼み」になることの懸念点はありますか。

 1年に1回程度の「出前授業」だけでは性教育がイベントになってしまい、積み重ねになりません。時間が足りず詰め込みになり、どうしても扱う領域が狭くなります。

 欧州の包括的性教育はとにかくボリュームが多く、低年齢から取り組まれています。ユネスコ(国連教育科学文化機関)などが作成した「改訂版国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、「人間関係」や「ジェンダーの理解」など八つの分野を示しています。医師が全てをカバーするのは難しいと思います。

 ――「ガイダンス」の内容を押さえることはどう重要なのでしょうか。

 性の問題の多くは人間関係に…

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