安倍政権は、戦後一貫して政府が維持した憲法解釈を「変更」し、安保法制を成立させた。あれから10年。立憲主義は損なわれたのか。9条は生きているのか。長谷部恭男・早稲田大教授(憲法)と杉田敦・法政大教授(政治理論)が語り合った。

全国で相次いだ違憲訴訟、現時点では原告の「全敗」

 杉田敦・法政大教授 安保法制成立から10年の間に、集団的自衛権の行使を可能とした2014年の閣議決定は違憲だとする訴訟が全国各地で提起されました。現時点では原告側の「全敗」です。もっとも裁判所は、「具体的な権利侵害が認められない」などとして、憲法判断を回避し続けたわけですが。

 長谷部恭男・早稲田大教授 ほぼ唯一、憲法判断に踏み込んだのが2023年12月5日の仙台高裁判決で「憲法9条に明白に違反するとまでは言えない」。これを「合憲だと認めた判決」と報じたメディアもありましたが、実質的には、集団的自衛権の行使は認められないと言っている。私はそう理解します。

安保法制を違憲として提訴するため東京地裁に入る原告団ら=2016年4月26日午後1時56分、東京・霞が関、越田省吾撮影

 杉田 集団的自衛権の行使が認められるのは「存立危機事態」、つまり、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に限定される――というのが政府見解です。判決は、この条件を厳格に守れ、厳格に守れば武力の行使は認められないはずだ、なぜならそのような事態はまず考えられないから、と。貴重な判決ですが、論理が入り組み広く理解されにくいのが難点です。

長谷部恭男・早大教授(手前)と対談する杉田敦・法政大教授=浅野哲司撮影

 長谷部 「アイスクリームが大好物の人」に登場してもらいましょう。彼は健康を気にして、アイスクリームを食べていいのは自宅にいる時だけだと決めた。ところがある日ルールを変更し、外出先にいると同時に自宅にもいる、そういう事態であれば食べられるということにした。これに対する普通の受け止めは①そんな筋の通らないルール変更は認められない②そんなわけのわからないルールのもとでは、どういう場合にアイスクリームを食べられる/食べられないのかさっぱり分からなくなってしまう――でしょう。

仙台高裁が打ち出した第三の立場

 杉田 安保法制に引き戻せば…

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