胃や腸の手術を担う消化器外科が窮地に立っている。日本消化器外科学会の試算では、今後20年で学会員が半減し、手術までの時間が長くなったり、救急患者の受け入れが難しくなったりするおそれがあるという。
「断らない救急」を掲げる神奈川県横須賀市の横須賀共済病院は、年間7500件の手術があり、うち1500件は緊急手術だ。腸に穴があいた、打撲でおなかが痛いなど、消化器外科が対応することが多い。執刀機会を求める若い医師が自然と集まってくる。
「ここ切ってもいいですか」「脂肪組織のところに血管があるかもしれないね。2回に分けてやろうか」
昨年夏、外科医2年目の北本真悠さん(27)が大腸がんの腹腔(ふくくう)鏡手術を執刀した。指導医の助言をもらい、約3時間で手術が終わった。週3回ほど執刀し、難しい症例も任されている。
北本さんは外科を選んだ理由について、「目に見えて病変を取り切ったことがわかることと、実習で手術が楽しかったから」と話す。手術を担当した患者が、しっかり食べて歩いて退院する姿を見るのはうれしい。
帰宅途中や寝る前に手術の動画を見るなどして、勤務時間外で勉強に費やす時間も少なくない。ただ、この病院は10年ほど前から土日は外科医2人が当直し、何かあればその2人に任せる仕組みに変えた。土日の出勤は月に1回の当直のみ。1泊2日の旅行などで、リフレッシュしている。
ただ、大学の同級生からは「私は外科医にならないな」と言われたこともある。10時間近くかかる手術や緊急の手術が多く、土日の休みがない印象も根強い。皮膚科や麻酔科のほか、開業しやすい整形外科は依然として人気がある。美容医療に進む同級生もいる。
消化器外科医でもある長堀薫院長は「対象疾患が多いからこそ消化器外科は魅力があるが、業務量が多いのは事実」と話す。
将来はがんの手術がしたいという外科1年目の吉川雄祐さん(27)も「緊急手術が多く、予定していた仕事を後回しにすることはよくある」という。ただ、それ以上にやりがいを感じる。
「自分の技術が問われ、自分の手で治していることがわかりやすい」
学会が異例の声明「待遇改善の後押しを」
消化器外科は胃や肝臓、腸などのがんの手術のほか、虫垂炎や腸に穴があいた患者の緊急手術にも対応する。一般的な「外科」は消化器外科を指すことが多い。
なり手不足の主な原因は、「忙しさ」だ。医師の働き方改革で、2024年4月から勤務医の時間外労働が罰則つきで規制された。
だが、学会が今年1月に公表した学会員へのアンケートでは、「労働時間が減った」と回答した医師は2割弱にとどまった。1割は、いまだに月100時間以上の時間外労働をしており、過労死ライン(月80時間)を超えている。74%が「業務負担の軽減なし」と答え、待遇の改善もほとんどみられなかった。
こうした状況で、医師の全体…