ガラスのベーゴマ。手回しできるよう、軸のついたものもある=川口市立郷土資料館提供

 寝そべってコマの軸を指で回す。ガラスでできたコマはくるくる回り出すが、すぐに止まる。つまらない。「本物のベーゴマ、したいなあ」

 杉戸町に住む松下茂夫さん(87)は、ベーゴマの産地川口市にある「川口ベーゴマクラブ」の古くからのメンバーで、同会のベーゴマ指導員。子どもたちからは「やさしい名人のおじいちゃん」と慕われている。

戦前につくられたベーゴマを前に思い出を語る松下茂夫さん。左は川口市立郷土資料館の井出祐史さん

 東京・深川で1938(昭和13)年、船の積み荷を取り扱う回船問屋に生まれた。当時、深川で大人気だった遊びがベーゴマだ。3歳で回せるようになったという。駄菓子屋で売っていた鋳物の鉄製のベーゴマは1個、1銭ぐらいだった。

 太平洋戦争が始まっても最初のころは、それまで同様、楽しく遊べた。しかし、戦況が悪化するにつれて、影を落とす。43年、5歳ぐらいだろうか。「親から、宝物のベーゴマを全部出せ、と言われたんです」

■子どもの遊びにも、政府の命…

共有
Exit mobile version