能登半島にある人口約7千人の町では、メディアが関心を寄せない中で、町政を監視する役割を1人の男性が担っていた。手書きの新聞をこつこつと作り続け、町の政治家に紙面で発破をかけてきた。そんな男性を追ったドキュメンタリー映画が完成した。タイトルは「能登デモクラシー」だ。
男性は、石川県穴水町のはずれに暮らす滝井元之さん。新聞「紡ぐ」を月2回、500部発行して住民や地元の施設に配っている。〈議員はどうあるべき?〉〈町のために活動していますか?〉。自室の窓辺にある机に向かい、紙に文字をぎっしりと敷き詰めていく。
手書きの新聞の作成は前身を含めると15年以上、続けている。過疎が進む町の議会を訪れる記者の数が少ないことなどが、長い活動の背景にあるようだ。
こんな滝井さんの活動に目を付けたのは、石川テレビの五百旗頭(いおきべ)幸男さん。富山市議会の政務活動費を巡る不正受給問題を追ったドキュメンタリー映画「はりぼて」で知られる。
五百旗頭さんは2023年1月から、穴水町を取材していた。町長と町議会の相互監視が不十分な現状や、町長が自ら理事長を務める社会福祉法人の利益になるような政策を提案したことを問題視したからだ。取材を進める中で同年9月、滝井さんに出会ったという。
五百旗頭さんが驚いたのは、地元住民による滝井さんへの寄付だ。「紡ぐ」の発行には年間100万円ほどかかるが、地元住民らから毎年、計数十万円の寄付があり、寄付額は年々増えているという。
「カンパが集まっていることがすごく面白いと思った。誰も声を上げられない小さなムラ社会の中にも、声なき声があるとリアルに証明している」
翌24年に穴水町政を批判する特集番組を放送する予定だった五百旗頭さんは、滝井さんを番組の主人公に定めて取材を重ねた。
そんな中、24年の元日に巨大地震が能登半島を襲った。
住民に変化、その土台には
震災後、五百旗頭さんが町を…