前回、2021年の衆院選の投票率は89・47%。山あいにある滋賀県日野町小野(この)は、県内19市町の投票所でトップの投票率だったとみられる。過疎化が進む地区の人たちは、なぜ投票に行くのか。27日の投開票を前に訪ねた。
田んぼが広がる。商店などはない。バスは通っているが、移動に車は欠かせない。
18日昼過ぎ、小野地区に入った。すぐに見えてきたのが、古代朝鮮の百済の高官・鬼室集斯(きしつしゅうし)をまつる鬼室神社。道をさらに進む。
目的の小野会議所は集落の中央付近にあった。地区の投票所になる。
前回、地区の有権者は95人。うち85人が投票した。今年9月末時点の人口は34世帯97人だ。
どうして投票率が高いのか。会議所の近くに住む50代の女性に聞いた。
この地区は、みんなが顔見知り。投票所に来なかったらすぐにわかるから、「投票に行くのは当たり前」なのだという。
雨が降ってきた。小屋の軒下で爪を切っていた70代の女性に話しかけた。22歳で結婚を機に地区に来た。当時から会議所が投票所で、選挙のたびに足を運んだ。「区長さんの手前もある」と笑う。
地区では、区長らが投票立会人を務める。
「投票率が80%を割ることはなく、90%を超えたこともあったと思う」。今春から区長を務める男性(66)が振り返った。
区長は生まれも育ちも小野。地区から県議や町議が出ていた時期もあり、選挙に対する住民の意識は高い。投票に行かない人は、県外に住んでいるなど事情があるケースが多いという。
区長が投票を促していることはないというが、前回の衆院選に限らず、地区の投票率は高い。「地区の人は投票率を意識していると思う」
実際、そのようだ。土いじりをしていた70代の女性は選挙が終わるたび、地域の新聞で投票率を確かめる。「記憶にある中では小野がずっと一番」と話す。
午後3時すぎ。ウォーキングに出てきた40代の女性に会った。24歳のときに地区に来た。それまで投票に行ったことはなかったが、「投票に行かなアカン風潮が小野にはある」。
選挙に関心を持つようになり、今回も投票に行く。「こういう世の中だから政党を見極めたい」
そのとき、1台の選挙カーが道を上がってきた。静かだった地区に政策の訴えが響いた。女性が教えてくれた。「(今回の選挙で)初めて回って来た」
夕方、大学2年の女性(20)が学校から車で帰ってきた。投票に行くつもりだが、政治のことはわからない。誰がなっても同じだと思っている。
投票に行かないといけない雰囲気がある小野地区を「いいと思う」と言う。「投票では顔とかを見て、いいなと思った人に入れたい」
区長の不安を思い出した。地区の将来だ。
人口が減り、投票率も下がれば、小野会議所の投票所が廃止されてしまうかもしれない。地区から離れた投票所では、高齢の住民は投票に行きにくい。
少子高齢化だけでなく、地区では農作物の獣害や農業の後継問題も抱える。区長は、投票する思いをこう話した。
「小さいながらもある権利。誰がなってもいっしょかもわからんけど、投票に行かへんかったら、文句だけ言っているのといっしょ」
薄暗くなってきた。山あいの道を車で抜け、小野地区を後にした。
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県内の投票率(小選挙区)は前回が57・33%、前々回の17年が56・32%だった。(仲程雄平)