病気や事故で脳の機能を損傷し、「読む」「書く」「話す」などが思い通りにできなくなる失語症や高次脳機能障害。その当事者たちが創り、演じる朗読劇が、今月19日に東京都内で上演されます。舞台にかける思いを聞きました。(板垣哲也)

取り戻した言葉

 2日午後8時過ぎ。パソコンの画面越しに、Zoom(オンライン会議システム)を使った稽古が始まった。

 「ちょっとしたことも覚えていられないのは、ワーキン……、ワーキン……」。台詞に詰まるマリカさん(48、仮名)に、周囲が助け舟を出した。「ワーキングメモリ(一時的に情報をとどめる脳のメモ帳)ね」「そう、それが低いから。ありがとう!」

 「うまく言えない時は今みたいに周りの人が助けてあげて下さいね」。朗読教室を主宰し、朗読劇の脚本、演出も手がける一般社団法人「ことばアートの会」代表の石原由理さんが優しく声をかける。

本番に向けた初めての舞台での通し稽古。いつものように稽古が始まると、緊張がほぐれて笑顔がこぼれた=東京都品川区、板垣哲也撮影

 マリカさんは、霞が関のキャリア官僚で忙しい日々を過ごしていた昨年3月、職場で倒れた。脳内出血で緊急手術を受け、一命を取り留めたが、目が覚めると言葉が出てこず、右の手も足も動かなくなっていた。

 病院でリハビリを続け、杖を…

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