論説副主幹 山口進

 文章は最初から最後まで、一本の線のように読み進められることが望ましいと私は思っています。

 もちろん線といっても直線だけではなく、緩やかに蛇行したり、らせん状に論を展開したり、二つの糸をより合わせたりするような文章もあるでしょう。そういうものも含めて、「一本の線」を実現するためには、つまり読む側が頭からすっと読んで、途中で迷ったり引き返したりせずに書く側の意図を受け取れるようにするには、何を心がけたらいいでしょうか。

 そんな問いには、「書き出しを決めるまでに文章を生むエネルギー全体の8割を注いでみては」と答えることにしています。

 書き出しの具体的な表現を練るためだけに8割というのではありません。言いたいのは、書き出しの選び方は文章全体の構成と切り離せないということです。伝えたい材料を取捨選択し、順番を考えながら配列して一本の線をどう通すか。苦吟を重ねた末に、「頭を決める」ことと「全体の背骨が通る」ことがほぼ同時に起きれば、私にとっては理想的なのです。

 今回、例としてご紹介するのは記者4年目、横浜支局時代に書いた、戦後の将棋史に残る「陣屋事件」の真相を探った記事です。

(取り上げた記事へのリンクが文末にあります)

 貴重な証言を聴けて輪郭は見…

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