私(宮坂)は記者になる前から、「人はなぜ選挙に行くのか」に興味があった。
昨年11月の兵庫県知事選は、投票率が前回より14ポイント以上高い55.65%だった。内部告発文書問題で失職した斎藤元彦氏が再選されたこの選挙は、SNSの力が結果に大きく影響したと言われている。
だが、「SNSの力」とひとくくりにすることに、引っかかりもあった。スマホの画面の向こう側にいる一人ひとりの有権者は、SNSの情報だけで判断していたのだろうか。
その一票を投じる理由を、かたちづくるものは何ですか。
参院選を前に、先輩記者と手分けして、兵庫県内の街なかで声をかけて回った。その中の4人が、座って話を聞かせてくれた。
まずは、参院選の公示直前に市長選が行われていた兵庫県三木市で出会った、男性の話から書き始めたい。
6月28日、うだるような暑さの真夏日の夕方に、期日前投票所の出口で声をかけた。
「7カ月前の知事選で、これまでになかった感情が湧いた」と男性は語り始めた。
37歳 人材派遣会社員「自分の目で見て、生の声を聞く」
晩秋の肌寒い朝は、熱気に包まれていた。
昨年11月16日、兵庫県明石市のJR明石駅前ロータリーに100人近くが集まっていた。
視線の先には、失職後に知事選に立候補した斎藤氏がいる。
投開票日は翌日に迫っていた。
「組織票や政党の支援がなくても、なんとかこの戦いに勝ち抜いていきたい」
演説の終盤、斎藤氏は両手でマイクを握り、語気を強めた。
「そうだー!」「うぉー!」「がんばれー!」の声とともに、拍手が響く。
三木市に住む人材派遣会社員の男性(37)は、聴衆から100メートルほど離れた場所で聞いていた。
今までに見たことのない選挙だ、と思った。
仕事は休みだった。早起きして40分ほど車を走らせてきた。
ネットなどで候補者の情報を調べたが、政策だけでは誰に投票すればいいか分からない。
「信用できる人か。誠実かどうか。自分の目で見て、生の声を聞いて、決めるしかないと思った」
数日前には仕事の後、兵庫県姫路市であった元尼崎市長・稲村和美氏の街頭演説に立ち寄った。選挙の街頭演説を聞きに行ったのは、人生で初めてだった。
内部告発文書に対する斎藤氏…