「マーチングを経験したことで、自分たちで考え表現できるバンドになった」と話す、宮本奈々夢さん(左)、道畠木々実さん(中)、山本まつりさん=2024年9月4日、金沢市末町、法野朱美撮影

 【石川】第37回北陸マーチングコンテスト、第26回北陸小学生バンドフェスティバルのマーチング部門(北陸吹奏楽連盟・朝日新聞社主催)が15日、富山県氷見市の市ふれあいスポーツセンターで開かれる。創部30年目で、初の全日本吹奏楽コンクールへの出場を決めた金沢学院大付属高吹奏楽部は、出場するマーチングでも頂点を目指す。

 9月上旬、学校を訪れた。「楽器が下がっているよ、目線はもっと上に」「スピンのタイミングがズレるよ、重心をまっすぐに意識して」。校内の廊下や、玄関前の広場、あちこちから部員たちの声が飛び交う。

 「活発にみんなから声が出るようになった。去年までは見られなかった光景です」と練習を指揮する今井磨凛さん(トランペット・3年)は話す。

 今井さんは、富山の砺波市立出町中でマーチングに出会い、高校でも続けようと思っていた。そんなとき、金沢学院が北陸マーチングコンに初出場した2021年の演技を見て進学を決めた。

 マーチングは、30メートル四方のフロアいっぱいに繰り広げられる鮮やかなフォーメーションで、迫力のある演奏を目でも楽しませる。華やかに見えるのは、何度も繰り返す地道な基礎練習の積み重ねがあってこそだ。

 だが、入学すると、マーチングをやっていることを知らずに入部した部員も多かった。

 部長の宮本奈々夢さん(フルート・3年)は、「運動が苦手だから吹奏楽部に入ったのに、運動部みたいなトレーニングにびっくりした」と話し、道畠木々実さん(トランペット・3年)も「演奏しながら歩くなんてありえないと思った」と苦笑いで当時を振り返る。

 マーチングの楽しさを伝えたい今井さんが悩んだのは、マーチングに対する部内の温度差。そして、練習場所や時間がないことだった。学校の体育館はひとつしかなくほぼ使えない。市内の体育館は楽器の演奏が禁止されているところが多い。

 そんな悩みを顧問の大門尚教諭(34)が一緒に考えてくれた。「私、マーチング経験はないけどアイデアはある!」

 ロの字形の校舎の廊下に点々とテープを貼った。マーチングの基本とされる5メートルを8歩(1歩が62・5センチ)で歩くためのポイントを付け、廊下を練習場にした。全長240メートルの階ごとに練習メニューを決めてサーキットトレーニングのごとく、春から毎日30分の練習を取り入れた。

 大きな体育館で練習できない代わりに、10人ほどの小グループに分け、わずかなスペースで基礎を徹底的に磨き上げた。

 放課後、ひたすらリズムに合わせて廊下を歩く姿に、他の生徒も驚いていた。しかし、人に見られる経験を積むことで、練習も楽しくなり、部員の意識も高まった。

 部員は総勢133人。そのうち81人が舞台に立つ。進学のために出場がかなわない部員もいる。山本まつりさん(トランペット・3年)は「参加できないけど、練習の相談をしてくれるのがうれしい」と話し、「見るたびに違うバンドみたいに成長している」と見守る。

 今井さんは「一人ひとりの存在が大切で、大人数で取り組むからこその達成感がある。みんなの思いを胸に、笑顔で氷見の舞台に立ちたい」と一歩一歩を踏みしめている。(ライター・法野朱美)

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