全国でスタジアム34件、アリーナ45件の新設、建て替え計画が進行中だ(2025年1月時点)。持続可能なスタジアム・アリーナのあり方とは。びわこ成蹊スポーツ大の吉倉秀和准教授(スポーツマネジメント)に聞いた。
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――民間企業が建設し、運営も手掛ける「民設民営」の施設が増えています。
「スポーツで『稼ぐ』ようになろうというのがスポーツ産業政策の一丁目一番地です。民設民営型だと自由度の高い設計、運営が可能です。プロスポーツのクラブが施設の運営権を取得するケースが多いですが、自分たちの創意工夫、努力次第で収入を増やせるようになった。サッカーJリーグ、バスケBリーグ、バレーSVリーグなどのクラブが、ようやくビジネス面でもプロ化してきたと言えます」
「今まではリーグからの分配金や配信権料などでベースをつくり、あとはほどほどに興行や営業活動をしていれば何とかなった。いわゆるフリーライダー的なクラブもあったと思います。それが、自分たちでいいコンテンツをつくれば、チームの核となる収入源を生み、増やすことができるという認識に変わってきた。そのための舞台と装置の役割を担うのが最先端のスタジアム・アリーナです」
――Bリーグが26年に始めるトップカテゴリー「Bプレミア」の参入要件にアリーナの条件があることが大きいです。
「Bリーグは満員のハコをつくり、稼ぐことで次のスポンサー、パートナーシップの拡大につなげるという好循環を生み出しました。新しいアリーナを持たないとBプレミアに参加できないという『外圧』が、立地自治体の背中を押している側面はあるでしょう」
――30年後、50年後も安定的に運営されるのか不安があります。
「スタジアム・アリーナのメインの興行はプロスポーツチームの試合です。ただ、ホームゲームはJリーグは20試合、Bリーグは30試合、SVリーグは20試合前後と限られている。残りの300日近い空きをどう埋めるかが課題になります。音楽ライブなど他のエンタメイベントを誘致できるか。一般的に年間200日の稼働日を保てるかがベンチマークになります」
――乱立による共倒れの懸念はありませんか。
「興行主がハコを選別し始めるのは間違いないでしょう。収容人数が8千~1万人のアリーナは選ばれやすいと聞きます。あとはワクワクを感じさせるつくりかどうか。施設の歴史やアイデンティティーを感じる、日本で言えば阪神甲子園球場のような存在感のある施設が出来てほしい。270度を海に囲まれたジーライオンアリーナ神戸には、その立地を生かした馬蹄(ばてい)型の大きいビジョンがあります。オリジナリティーのある設計、レイアウトはアピール要素になる。『海外の事例を参考にしてつくりました』だけでは厳しい」
――行政との関係は。
「構想、建設段階でうまくいかない、紆余(うよ)曲折がある施設の多くは公設です。多額の税金を投入するだけに縛りがあり、多方面の意見を尊重しているうちにズルズルと進まなくなる。計画段階でどういうスタジアム・アリーナにすべきか、しっかりと話し合い、綿密な計画をつくる必要がある。『欲しいから建ててくれ』ではすんなりとはいきません。街づくりの中でスタジアム・アリーナを生かす考え方が求められます」
――ビジネス面で生き残るために必要な視点とは何でしょう。
「スタジアム・アリーナはハード、そこで行われるイベント、プロスポーツチームが行う興行がソフト、このソフトを実際にマネジメント、クリエートしていくのが人材です。ハード、ソフト、人材を三位一体で運用、運営していくことが非常に大事です。コンテンツを駆使できる人材を獲得して、マネジメントしていくことが求められます」
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