報道機関の記事が生成AI検索に無断で利用されているとして、朝日新聞社と日本経済新聞社が26日、米AI企業の共同提訴に踏み切った。読売新聞社に続く動きで、欧米で相次いできた同種訴訟が国内でも広がる。「ただ乗り」が常態化すれば、民主主義の根幹が揺らぐとの危機感がある。
- 朝日・日経の2紙、米AI企業を提訴 「記事無断利用で著作権侵害」
「日本新聞協会を通じて業界全体で対応を求めてきた。改善がみられないまま無断利用が続く状況は看過できない」「共同提訴によって野放図な著作権侵害に歯止めをかけ、民主主義の根幹を支える健全な報道を守る意義を訴えていく」。朝日、日経両社はコメントを発表し、訴訟の意義をこう強調した。
スマホやパソコンの利用者の「検索(質問)」に対し、新聞社のサーバーにある記事をクローラーというロボットを使って無断で集め、それをもとに生成AIで要約をつくって回答――。こうした行為が、著作権法上の複製権や公衆送信権の侵害にあたるというのが、3社に共通する訴えの骨子だ。
加えて朝日、日経両社は、回答の引用元として両社の社名や記事を示しながら、実際の記事内容とは異なる虚偽の事実を多数表示したと指摘。営業上の信用を害する虚偽の事実を告知、流布することを禁じた不正競争防止法違反にあたるとも主張している。
さらに朝日新聞は、提携先のLINEヤフーに提供した記事の情報も無断で取得・複製されたと主張。日経新聞は、日経電子版などで有料会員のみに配信している、いわゆる「ペイウォール」内の記事も、情報取得などの対象にされたとそれぞれ訴えている。
あいまいな線引き 「判例は唯一無二のものに」
生成AIによる著作物の利用は、著作権法の線引きにあいまいさが残る。
著作権法は思想や感情の「享受」を目的としなければ、「学習」に使うためのデータ収集などは許諾なく利用することを認める一方、「著作権者の利益を不当に害する」場合は利用できないと定める。
生成AIの急速な発達、普及をふまえて文化庁は昨年、「考え方」を公表。「著作権者の利益を不当に害する」のは、パスワードなどの複製防止措置を回避して著作物を利用する場合などと示したが、適用の解釈は利用者に委ねられている。同庁著作権課の担当者は「今回の訴訟は国内では判例のない唯一無二のもので、注視している」と話す。
日本新聞協会は近年、生成AIをめぐって相次いで声明を発表。生成AI企業に対し、記事の利用にあたっては報道機関の許諾を得ることなどを求めている。
報道のビジネスモデル 「崩壊しかねない」
明治大の今村哲也教授(知的財産法)の話
AI技術の急速な発達により、生成AIによる著作物の機械学習を原則として認める日本の著作権法では、知的財産の保護が十分でない部分が生じている。そのため、世の中の複雑な事象を言語化して記事にする報道機関の労苦に、一部のAI企業が「ただ乗り」しているのが現状だ。
AI企業が質の高い情報を求める背景には、激しい開発競争がある。コストをかけたコンテンツが無断利用されれば、報道機関のビジネスモデルが崩壊しかねない。ジャーナリズムが枯渇すれば世の中の情報がウソと虚構だらけになる恐れもある。国際的なAI企業が巨大化する一方で、報道機関がやせ細ることを社会が容認するかどうかが問われている。
海外でもAI企業を相手取った訴訟が広がっており、日本でも伝統的メディアが業界全体で一致団結して対処していくべき問題だと思う。
朝日新聞「改善みられぬまま無断利用、看過できず」
生成AI事業者による記事コンテンツの無断利用に対しては、当社のみならず日本新聞協会を通じて業界全体でも対応を求めてきました。改善がみられないまま無断利用が続く状況は看過できず、今回、問題意識を共有する日本経済新聞社との共同提訴に至りました。許諾を得ずに違法な利用を続ける事業者には、引き続き対応を求めてまいります。
日経新聞「野放図な著作権侵害に歯止めをかけたい」
生成AI事業者による著作権侵害は新聞業界共通の問題です。記者が多大な時間と労力を費やして作成した記事の無断利用は看過できず、記事とは異なる虚偽の事実が表示される状況も生じています。共同提訴によって記事を許諾なしに利用していることを明確にし、野放図な著作権侵害に歯止めをかけたいと考えています。民主主義の根幹を支える健全な報道を守る意義を訴えていきます。
- 「紳士協定」かいくぐるAIボット 悩む報道機関、相次ぐ訴訟と連携