青い空に白い雲。子供の絵でも定番の表現が、近世より前の日本美術にほとんど出てこないのはなぜか――。東京・渋谷区立松濤美術館の「空の発見」は、学芸員のそんな疑問から生まれた展覧会だ。
見えてるのになぜ描かない?
京の洛中洛外を俯瞰(ふかん)する画面の大半を、金色の雲がもくもくと覆い隠している。松川龍椿(りゅうちん)「京都名所図屛風(びょうぶ)」(19世紀)のような金雲は、桃山時代以降の屛風や障壁画でよく見られる定型表現だ。
狩野探幽「富士山図」(1665年)では富士山の背景は余白とみなされ、禅僧・隠元隆琦(りゅうき)による賛が大きく入れられている。葛飾北斎「冨嶽三十六景 山下白雨」(19世紀)で画面上端にひかれた青色は「一文字ぼかし」という浮世絵の手法で、そこに空があることを記号的に示す。同時代やそれ以前の西洋絵画の写実的な空と比べると、日本の空表現の異質さが際立つ。
ルネサンス以降の西洋絵画は…