7年前の春、選抜高校野球大会での兄の雄姿を見ようと駆けつけたアルプス席で、体感した大歓声。立命大の竹田剛(3年)は当時、中学2年に上がる前の春休みだった。そしてこの12月、その時と似たような空気をグラウンドに立って感じた。「人が多くて……こんな場所で、できんねんな」
アメリカンフットボールの大学日本一を決める「甲子園ボウル」(全日本大学選手権決勝)が15日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場であった。強力なランプレーを武器に、立命大は9年ぶりの頂点に立った。その立役者の一人が、QBの竹田だ。
竹田の父・勉さんは、近大やXリーグなどで活躍した元アメフト選手。そして兄は、今秋のプロ野球ドラフト会議で横浜DeNAベイスターズに1位指名された、三菱重工Westの右腕・竹田祐さん(25)。高校時代は大阪・履正社高のエースとして、2017年の第89回選抜大会でチームを準優勝に導いた。
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スポーツ一家で育った竹田も、幼稚園生のころから兄の野球についていき、ボール拾いをしながら野球に親しんだ。中学までは野球をやっており、投手兼外野手。「(球速の)最速はわからないけど、本塁から左翼席に投げられるくらいの肩はあった」ほどの強肩だった。
父からアメフトを勧められたことはなかったが、父がプレーする動画を小さい頃から見ていたこともあり、「死ぬまでに一回やってみたい」と高校からアメフトの世界に飛び込んだ。
パスを投げ、時に自分で走り、攻撃を指揮する司令塔。そんな花形のポジションを昨年から任されている。
ただ昨年は「苦しんでアメフトをしていた」。昨年のリーグ戦では大一番の関学戦で、試合序盤にインターセプトを許すミスを犯し、「最初から流れを悪くして試合をつぶしてしまった」。甲子園にはたどりつけなかった。
同じ頃、兄もドラフト会議で指名漏れを経験した。大学に続き2度目の指名漏れだった。それでも兄は下を向かなかった。正月休みに実家に帰ると毎朝休まずに走っていた。その背中に、竹田も寝ぼけながらついていった。走り終わると、ジムに行って体を鍛えた。
「投手だからアホみたいに走り込んでいた(笑)。ストレッチもちゃんとやっていた。自分もしっかりしないと、と思わされた」。アスリートのあるべき姿を目の当たりにして、気を引き締めた。
ストイックな兄だが、普段は優しい。夜に時間が空いた時には電話で雑談にも応じてくれる。試合も現地に駆けつけてくれ、スタンドから「肩に力入ってるんちゃう?」みたいなしぐさをされ、緊張がほぐれたこともあった。
3年生になり、試合でも余裕が生まれた。「ブロックの仕方とかオフェンスラインの取り方とか分かってきて、周りを見ながら立ち回れている」。その成果もあり、関西学生リーグでは優秀攻撃選手に選ばれた。
「今年の竹田家はすごいことを見せたい」と臨んだ甲子園での大一番。試合前には当時の兄の写真を見返しながら、想像を膨らませた。兄からは「楽しんでやれよ」と送り出された。ファンブルをしても、パスが決まらなくても、決して下を向かなかった。「ワクワク感が強かった」。持ち味の強肩からロングパスを通し、タッチダウンにもつなげた。
7年前とは逆で、今度はスタンドで兄が見守る前で、自分のプレーで観客を沸かせ、45―35で法大に勝って、歓喜に酔いしれた。「竹田家、今年はすごいんですよ」。有言実行に、顔をくしゃくしゃにした。