段階的な廃止が示唆される新型SLSロケットとオリオン宇宙船©NASA

 米政府が2026会計年度の政府予算の要望をまとめた「予算教書」で、月面有人探査「アルテミス計画」について、月の周回中継基地「ゲートウェイ」の中止や、宇宙船などを運ぶ新型ロケット「SLS」を今後廃止させる提案をした。日本人宇宙飛行士2人が月面に降り立つ「約束」はどうなるのか。日本の宇宙政策のかじ取り役を担う内閣府宇宙政策委員会で委員長代理を務める常田佐久さんに聞いた。

――予算教書で、アルテミス計画を主導する米航空宇宙局(NASA)の予算の大幅削減が提示されました。どう受け止めていますか?

 以前から世界中で動揺が走っていたが、「やっぱりそうだったのか」という印象だ。

 NASAは予算教書を受けて、対応しなければいけない立場だ。ただ、NASAはアルテミス計画には力を入れてきた。誰も良い方針とは思っていないはずだ。次期NASA長官にトランプ氏が指名したアイザックマン氏の手腕やリーダーシップが期待されている。

宇宙科学「なかなか理解してもらえない」

――予算を減らした狙いはどこにあるのでしょう?

 米国の研究者と意見交換しているが、本当のところは誰もわからない。一般的に、トランプ大統領は科学の重要性への理解が足りないと言われているが、研究者の側もよく考える必要がある。1年後、10年後、100年後ではなく、どうしても明日の利益になるところに目がいきがちだ。

 何千億円かかる科学ミッションでどういう成果が出るのか。「宇宙の果てのことがわかります」と言っても、なかなか理解してもらえないのかもしれない。科学以外の意義や価値を説明するなど、工夫がいるのではないか。

月の上空につくられる宇宙ステーション「ゲートウェイ」のイメージ(C)NASA

――提案された予算案がこのまま通ってしまうことはありえますか?

 日本では、与党が単独過半数の場合、予算案はほとんど修正されず通ってしまう。米国ではそうはいかない。予算教書は参考資料なので、最終的に決める権限があるのは議会だ。

 過去にも同じような例があった。トランプ氏は、1期目(2017~21年)の予算教書で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参加する「ローマン宇宙望遠鏡」(26年以降打ち上げ予定)の開発予算を「0ドル」とした。翌年も、翌々年も同様だった。

 だが議会はその3年間、毎年3億~5億ドルの予算を付けた。トランプ政権が科学予算に関して厳しいのは今に始まったことではない。悲観してじたばたせず、対策を練ることだ。

 政権の方向性は大事だが、その下には優れた官僚組織があり、米国の安定感をもたらしている面もある。

NASA施設閉鎖「つぶすのはありえない」

――天文観測や地球観測を担う…

共有
Exit mobile version