岩手県北上市の工場で作られている高級カシミヤニットが、世界各国で販路を広げている。受注生産のセーターで、職人が色や編み方にこだわって作り、洗濯機で洗っても縮まない高品質を誇る。今秋からは、英国の高級紳士服店で販売も始まった。
カシミヤニットを製造するのは、東京都に本社を置くUTO(ユーティーオー)(宇土寿和社長)で、1992年に創業した。2011年から北上市に工場を構え、今年4月、旧黒岩小学校の木造校舎を活用した新工場をオープンした。
UTOのカシミヤニットは、3Sから4Lまでの幅広いサイズ(5L以上は要相談)と、25種類の色の中から選べて、着丈や袖丈の長さを調整して注文できる。それを可能にしたのが、最高級のカシミヤ素材と職人たちの技だ。
岩手県北上市に工場 地域で雇用
地元の若者や女性を積極的に雇用し、育ててきた。「現在、13人の職人がいて、そのうち12人が女性です。編み立てから仕上げまで一貫しておこなっている」と工場長の玉沢宏美さん(41)は語る。
UTOでは、日本製のコンピューター制御の編み機を使う。「いま世の中に出回るニットの柄をほぼ全て編むことができる優れもの」と玉沢さん。注文に応じて、職人が1枚1枚プログラミングして編んでいく。
次に「リンキング」という作業で、生地を縫い合わせていく。伸び縮みする生地の編み目を一目一目、熟練の技で根気よくつないでセーターの形にする。
最後にふわふわの手触りにするため、洗った後に天候にあわせて自然乾燥をする。注文を受けてから手元に届くまで、約1カ月かかるという。
製造主任を務めるのは、玉沢さんの妹の舘下愛美さん(38)だ。「幼い頃からもの作りが好きだった」といい、高校を卒業後、ニット職人一筋だ。後進の育成にも力を入れており、県の「青年卓越技能者」として今年表彰された。
手洗い可能 付加価値で差別化
UTOのセーターは1着6万円以上する。ファストファッションのブランドでは、1着1万円以下でカシミヤセーターが買える時代だが、高い付加価値をつけて差別化に成功した。
「家庭の洗濯機で洗っても縮みません。届いてから2、3年経つとカシミヤがちょうどいい手触りになるようにしている。10年以上愛用する方も。『育てるカシミヤ』なので、天然素材ならではの経年変化を楽しんでほしい」と玉沢さんは語る。
こうした品質管理が評価され、英国王室御用達の高級紳士服店「ハンツマン」で日本のニットブランド初となる取り扱いが決定した。今年は、フランスやスイスなど8カ国・地域で販売したという。
玉沢さんや舘下さんたちは、木造校舎をいかした広々とした工場で、日々黙々と仕事に励む。「北上発のカシミヤニットを、日本の文化として世界に届けたい」