アジアのデトロイトはいま
日本の自動車メーカーが育み、アジアの「デトロイト」といわれるタイで、いま、異変が起きています。日本車の牙城に食い込み、そのシェアを奪いつつあるものは。その最前線を報告します。
夕刻、タイの首都バンコクを流れるチャオプラヤ川近くの工事現場に年季の入った銀色のピックアップトラックが止まっていた。
5人の作業員が次々と乗り込んでいく。現場を束ねる持ち主の男性(50)は「なんでも積み込める超大型のバンだ。走りもとっても良いんだ」と胸を張った。
セダンのような運転席から後方に延びる広い荷台を持つこの車は、いすゞ自動車の「D―MAX」だ。
日本では商用車の印象が強いいすゞだが、タイでの知名度は絶大だ。乗用車を含めた国内販売のシェアは、首位のトヨタ自動車に次ぐ。その地位を確固たるものにしているのがD―MAX。タイ経済を支え、「プロダクト・チャンピオン」とも呼ばれる1トンピックアップトラックの新車販売で4年連続首位の人気車種だ。
トヨタ、いすゞ、ホンダ……。渋滞でどこまでも延びる車列、高速道路を行き交う車の数々。都市部から地方部まで、タイの道を埋め尽くすのは無数の日本車だ。
2022年のタイの国内販売(マークラインズ調べ)は88.7万台と、東南アジアではインドネシアに次ぐ。うち日本勢が80%超を占める。
そんな日本車の「牙城(がじょう)」であるタイで23年、異変が起きた。
それは静かに、しかし確実に、広がっている。
■根を張るいすゞ、工場は挽回…