「日本遺産のまち」をアピールする有松・鳴海絞(しぼり)会館=2025年5月19日午後0時42分、名古屋市緑区、嶋田圭一郎撮影

 文化庁は7月31日、日本遺産に認定した名古屋市緑区の有松(ありまつ)の取り組み状況を評価したところ、認定を取り消す可能性もある「再審査」の扱いにしたことを明らかにした。年内にも最終結果が出るが、市は「イメージ低下」につながる認定取り消しだけは避けたいと危機感を募らせ、地元と対応を急ぐ方針だ。

 日本遺産は、地域の歴史や文化財を「ストーリー」にまとめ、観光振興につなげる試み。有松は2019年度に「江戸時代の情緒に触れる絞(しぼ)りの産地~藍染(あいぞめ)が風にゆれる町 有松~」として認定された。ストーリーを彩る構成文化財は「ストーリーを語る上で不可欠な、地域の魅力ある有形・無形の文化財群」などと定義されている。

 文化庁は今回の評価について具体的な内容を公表していないが、市教育委員会によると、提出した27年度までの3年間の事業計画に対し「地域を発展させていくための取り組みが見えづらかったのではないか」(文化財保護課)とする。認定取り消しになれば、「日本遺産」を掲げた事業ができなくなる。市は今後、文化庁からの指摘を踏まえ、「計画を改善し、認定の継続を目指したい」としている。

 有松では、まちづくり会社が発足し、名古屋鉄道と組んで古民家を宿泊施設やカフェなどに活用する事業に乗り出したばかり。一方、明治期に建てられた構成文化財の弘法堂が、6月に撤去された。建物の所有者側は、地域の共有財産だとして反対したが、私有地としての活用を図る土地所有者側の意向が強く、更地となった。

 全国のストーリーを紹介する「日本遺産ポータルサイト」には依然、子どもたちがお参りする弘法堂の写真が掲載されている。撤去後、地域住民の間にはしこりが残ったままだ。

 文化庁は現在104件ある日本遺産を100件程度に絞る考えで、質の底上げやブランド力の維持・強化を図るため、24年度から点数評価を導入している。今年2月には、太宰府天満宮を含む福岡、佐賀両県の「古代日本の『西の都』」の認定が初めて取り消された。

 今回の評価で「再審査」となったのは、有松の他に、「木曽路はすべて山の中」(長野県・岐阜県)、「海女(Ama)に出逢(であ)えるまち 鳥羽・志摩」(三重県)など5件を数える。

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