5月28、29の両日、広島市の県立広島産業会館には、会場の外まで芳醇(ほうじゅん)な香りが漂っていた。
展示場で開かれていたのは、できたばかりの清酒の出来栄えを競う「全国新酒鑑評会」の利き酒会だ。
2024酒造年度(24年7月~25年6月)につくられた新酒809点が出品され、酒造りに携わる関係者約500人が一口ずつ味見をしては、甘みや酸味、香りなどをメモしていた。
宮城県の酒蔵に30年以上勤めているという男性(55)は「高い評価を受けた日本酒は香りと味わいのバランスが特にすばらしい。毎年、評価の傾向を確かめ、自分たちの酒造りにフィードバックしています」と話した。
鑑評会で高く評価された日本酒は「入賞酒」となる。さらに、品格も兼ね備えた日本酒が「金賞」に選ばれる。
今回は410点が入賞し、そのうち202点が金賞に選ばれた。
米や米こうじ、水を主な原料としてつくられるお酒のうち、国産米を原料として国内で製造されたのが日本酒だ。国産米などに限定しないお酒は清酒、こしていないものはどぶろくと呼ばれる。
日本酒はさらに、米をどれだけ削って雑味をなくすか、味の微調整のための醸造アルコールを加えるかどうかで純米酒や吟醸酒、大吟醸などと呼び名が変わる。
日本酒の製造方法は、数あるお酒の中でも珍しい。
例えば、ブドウは豊富な糖分を含むため、発酵させるだけでアルコールができてワインになる。しかし、日本酒は、米のでんぷんをこうじによって糖にさせてから、発酵させる必要がある。
しかも、この糖化と発酵が一つのたるの中で同時に進む、絶妙なバランスの上に成り立つ。
こうして、糖やアルコール、アミノ酸などが複雑に絡み合い、「淡麗辛口」「濃醇甘口」といった味わいを醸してきた。
「それが近年は、甘口化が徐々に進んでいます」
酒類総合研究所の阿久津武広・業務統括部門副部門長は話す。
鑑評会出品酒の成分調査も担う研究所の調べでは、日本酒の甘さ辛さの指標となる「日本酒度」は、1998酒造年度の出品酒は平均4.6だったが、2008年に3.5、18年には0.9、最新データとなる22年は-0.2まで下がった。
日本酒度は、お酒の比重の逆数から水の比重の1を引いた数値で、糖分などが多ければマイナスになって甘口に、少なければプラスになって辛口になる。出品酒の平均は、四半世紀で辛口から甘口になった形だ。
専門家にとっても「予想外」だった甘口化、今後も続く?
阿久津さんによると、甘口化が進んだ要因は、06年に日本醸造協会が開発したある酵母がきっかけだった。
「きょうかい酵母1801号…