横断幕を掲げ、新潟地裁に向かう新潟水俣病損害賠償請求訴訟の原告・弁護団=2024年4月18日午後0時36分、新潟市中央区、吉田耕一郎撮影
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 新潟水俣病の被害を訴える人たちが国や旧昭和電工(現レゾナック・ホールディングス)に損害賠償を求めた訴訟の判決で、新潟地裁は18日、原告47人のうち26人を水俣病と認め、同社に計1億400万円の賠償を命じた。一方、国の賠償責任は否定した。判決の要旨は次の通り。

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 【事案の概要】

 阿賀野川の魚介類を摂食したことで水俣病に罹患(りかん)したと訴える原告らが国と同社に損害賠償を求めた。

 原告らは同社について、水俣病の原因物質であるメチル水銀化合物を含む工場排水を阿賀野川に流出させた過失があるとして、賠償責任を負うべきだと主張した。また、1973年に同社と被害者団体が結んだ補償協定に基づく賠償責任があるとも訴えた。

 国に対しては、規制権限を行使しなかったことについて賠償責任があるとした。

 【同社の賠償責任】

 阿賀野川流域で水俣病に罹患した人については、過失による不法行為責任を負う。

 行政から認定を受けていない人は、補償協定における「認定患者」には当たらないから、この訴訟で水俣病に罹患していると認められた場合でも、補償協定に基づく金銭の支払いを求めることはできない。

 【国の賠償責任】

 鹿瀬工場については、原告らは1961年末までの間に、国が有機水銀の排出や排出による周辺住民の健康被害を具体的に認識・予見できたと指摘する。だが、国が認識・予見できたとはいえず、水質二法(水質保全法・工場排水規制法)に基づく規制権限の行使をしなかったことが著しく合理性を欠く状況にあったとはいえず、国家賠償法上の違法があるとはいえない。

 【原告らが水俣病に罹患しているかどうか】

 阿賀野川流域では、新潟水俣病が公式確認された65年6月から、安全宣言がされた78年までの間、阿賀野川の川魚を多量に摂食する人がいた(ただし、公式確認から間もない時期の下流域周辺の住民は、摂食を控える人が多かった)。

 被告らは、発症閾値(いきち)(集団の中で最も感受性が高い人に症状が観察されはじめる値)について、毛髪水銀値50ppm(昭和40年代から50年代にかけて世界保健機関などで策定された基準値)と主張する。だが、現在の知見ではこれを下回る摂取量でも健康被害を生じる場合がありうる。

 摂食から長期間経過した後の発症については、メチル水銀に暴露してから6、7年程度が経過した後に発症する場合があることは実証的な知見といえる。その一方、それよりも長期間が経過した後に発症する場合があることは実証的な知見とはいえない。

 (民間の医師らが作成した)共通診断書によって水俣病に罹患しているかどうかを判断するのは難しい。主として公的検診の結果によって判断すべきだ。原告らの主張する疫学的知見によって、そのまま判断することはできない。

 そのうえで、行政から患者認定を受けていない原告ら45人のうち、26人はメチル水銀暴露のほか、症候の内容・経過、想定しうる他の原因の可能性などを考慮し、メチル水銀暴露に起因する症状が生じている(水俣病に罹患している)高度の蓋然(がいぜん)性があると認められる。

 その他の19人には、水俣病に罹患している高度の蓋然性があるとは認められない。

 【除斥期間】

 水俣病に罹患していると認められる人について、メチル水銀への暴露による症候は、提訴の20年以上前に生じており、提訴の時点で民法の除斥期間が経過していたこととなる。

 だが、自らが水俣病にかかっていた可能性を認識するに至らなかったり、可能性を認識しても差別・偏見などのために同社への請求を躊躇(ちゅうちょ)したりするなどして権利行使が難しい事情があった。

 この裁判に除斥期間の規定を適用することが著しく正義・公平の理念に反すること、原告らが医師から水俣病であると診断されてから1年以内に訴えを提起したことなどを踏まえ、除斥期間の適用を制限すべきで、水俣病に罹患していると認められる者の損害賠償請求権が消滅したということはできない。

 【賠償額】

 水俣病に罹患していると認められる人について、慰謝料を350万円とし、弁護士費用との合計400万円の限度で認容する。

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