6月1日付朝日歌壇の入選歌36首をお届けします。今週は永田和宏さんが海外出張のためお休みで、選者は川野里子さん、佐佐木幸綱さん、高野公彦さんです。☆は共選作です。
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川野里子選
こんなにも骨の浮き出る身体して笑うごと見ゆガザのみどりご(観音寺市)篠原 俊則
友達や家族とけんかしたときのぼくは素数になった気分だ(奈良市)山添 聡介
バンザイの姿に干されたトレーナー完走したなシニアマラソン(船橋市)藤本 典裕
ふるさとを離れることを受け入れた日の目で父がはく紙パンツ(和泉市)星田 美紀
他人へと渡りし食堂 非常口に巣づくりはじむ燕は今年も(市川市)山崎 蓉子
ゴミ袋出しましたかと老い妻の寝言が破る真夜のしじまを(横浜市)丸岡 良雄
妻の部屋ノックもせずに開けてみる逝きてふた月姿の見えず(秦野市)八木 実
少しだけ開いたリュックの隙間からレジャーシートが羽化する五月(東京都)音羽 凜
わが庭にのそりと顔出す猫はみな旅の途中という顔をする(福岡県)末松 博明
徘徊の母は窓から抜け出して探しぬ十五で逝った弟(西東京市)佐々木節子
大用水路と大排水路時に寄り時に離れて穀倉を行く(水戸市)檜山佳与子
やわらかき田に印(しる)された十字架のひとつひとつに苗を植えゆく(佐渡市)藍原 秋子
【評】一首目、飢餓状態にあるガザ。それでも嬰児(えいじ)は笑おうとする。報道画像から独自なものを見取った。二首目、素数は孤独だ。四首目、老いを受け入れる目だ。六首目、妻の存在感は圧倒的。十二首目、苗の一つ一つが祈りだ。
佐佐木幸綱選
この村の風が好きだといふや…