ファクトチェック

チェック対象=インターネット上の言説

 選挙の期日前投票で、「えんぴつで投票したら書き換えられる。できる限りボールペン持参」「票がすり替えられる」(6月中旬、SNSに複数のアカウントが同様の内容を投稿。一部投稿から抜粋)

期日前投票で一票投じるまでの流れは

 6月の東京都議選期間中、X(旧ツイッター)に投稿された期日前投票の「不正」に関する主張は、「えんぴつで書いた投票は書き換えられる」「票がすり替えられる」といった内容が多かった。「不正防止のために当日に投票するほうがよい」といった投稿も見られた。YouTubeやTikTokでも同様の主張をする動画があった。

 ユーザーローカル社のSNS分析ツールを使ってサンプリングデータを抽出し分析したところ、「期日前」と「不正」という言葉を含んだX上の投稿は、都議選の告示日の6月13日から投開票日の22日までに2万超、投開票日翌日の23日には1日で6千件あった。

 有権者本人の確認をどう進めるか。期日前投票では、投票所への入場整理券を忘れたり、紛失したりした場合も、名前、住所、生年月日を宣誓書に記入し、選挙人名簿と照合する。

 本人確認書類を持たない有権者の投票権利を保障するため、運転免許証やマイナンバーカードなど顔写真付きの書類での確認は義務づけられていない。

 本人確認が終わると投票用紙を受け取り、投票の秘密を確保するための囲いのある「投票記載台」で候補者名などを記して投票箱に入れる。

 投票用紙は、厳格に枚数確認されたものが都道府県の選挙管理委員会から各市区町村に配られ、各選管によって厳重に保管され、交付される。

 筆記具については法令に規定はないが、一般的には鉛筆が投票記載台に用意されている。

 投票箱は「できるだけ堅固な構造」とするよう公選法施行令で定められており、アルミなどで頑丈にできている。

二つの鍵で施錠された投票箱、票取り出す難しさ

 まず、第三者が投票内容を書き換えられるかどうかについて調べてみた。

 票を書き換えるためには、投票箱を解錠して開け、票を取り出し、鉛筆で書かれた文字を一枚ずつ消した後、別の候補者名を書いたり白票にしたりして投票箱に戻し、再び施錠する必要がある。

 総務省選挙部管理課によると、公職選挙法や同法の施行令・施行規則では、こうした選挙事務中の不正の発生を防ぐための対策が定められている。

 投票が始まる前は、投票箱の中に何も入っていないことを投票に訪れた最初の有権者に示すことが求められている。期日前投票の場合は、告示・公示日翌日の朝一番のタイミングとなる。

 そして一連の投票手続きは、投票管理者と投票立会人が監視する。投票管理者とは、投票用紙の交付や投票箱を所定の場所に送るなど投票所の選挙事務を管理する人のこと。市区町村の選挙管理委員会によって有権者の中から選ばれる。投票立会人は投票に関する事務が公正になされているかや、投票に不正がないかなどを監視する。各自治体で有権者の中から公募で選ばれたり、地域の実情に詳しい人から選ばれたりする。

 公選法施行令などによれば、その日の投票が終わり、投票箱を閉める時は、「一の鍵」「他の鍵」と呼ばれる二つの鍵でふたを閉め、鍵は管理者と立会人がそれぞれ保管する。

 二つの鍵は別々の封筒に入れて、管理者と立会人の印鑑を押して封印されるため、何者かが封を開けた場合は気づける仕組みとなっている。

 書き換えは極めて現実的ではなく、実現は不可能に近い。

東京都江東区役所で6月20日、この日の期日前投票が終わった後、上ぶたの部分に鍵がかけられた投票箱。期日前投票が始まった日に箱の中が空であることが選挙人の目の前で確認された後、側面のふたも鍵がかけられている=2025年6月20日午後8時11分、真田嶺撮影

 ちなみに、書き換え説に関連してSNS上には「えんぴつは消されるので、ボールペンを持参します」といった言説も数多く投稿されていた。

 国内で普及している投票用紙は通常の用紙ではなく、「ユポ紙」と呼ばれる耐水性・耐久性に優れた合成紙だ。

「他人の一票に影響する可能性も」

 選挙管理の業務に長年携わってきた「選挙制度実務研究会」(東京都渋谷区)の小島勇人理事長(73)は、「ボールペンなどで書くとインクが乾かず他の票とこすれてにじむなどして、投票の効力の判定に混乱を生じ、無効票となってしまう懸念もある。自らの票だけでなく、他の人の一票もインクで汚すことも起こりかねないことから、推奨しない」と話す。

 投票箱がすり替えられる可能性についてはどうか。

 総務省選挙部管理課によると、原則として開票日まで投票所の外には持ち出さず、鍵のかかる場所で厳重に保管される。投票箱を開票所に送り届ける際は、投票管理者に1人あるいは複数の投票立会人が付き添う。すり替えについても、実行可能性は限りなく低いと言える。

選挙制度実務研究会の小島勇人理事長=2025年6月24日午後3時0分、東京都千代田区九段北4丁目、真田嶺撮影

 投票箱の中身を別に用意していたものと「入れ替える」といった投稿についても検証してみた。

「疑わしければ本人確認書類提示求められる」

 使った枚数と残り枚数に差がないか厳密に確認するため、別の用紙を使った「票」を大量に持ち込むのは極めて困難だ。

 期日前投票について「他者になりすまして何回でも投票できる」という投稿の真偽はどうか。

 運転免許証などで本人確認をしないことへ不安や疑念が背景にあるとみられるが、「選挙制度実務研究会」の小島勇人理事長は、「選挙人名簿との対照の際、本人かどうか疑わしければ本人確認書類の提示を求めることも可能。公選法違反で処罰の対象となるリスクを冒して何度もなりすまし投票をすることは極めて考えにくい」と話している。

【判定結果=誤り】

誤り

 選挙の投開票作業については、公選法施行令などに基づき、不正を防ぐための対策が何重にも講じられている。期日前投票した票が「書き換えられる」「すり替えられる」といった事態が起きる可能性は限りなく低い。

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