奈良大付の石井颯太

 (25日、春季近畿地区高校野球大会1回戦、奈良大付8―1京都共栄=8回コールド)

 5点リードの七回だった。奈良大付の4番打者・石井颯太(3年)が放った打球は、左中間方向へ高々と上がった。

  • 涙した大阪桐蔭の中野「感動っていうか」 主将でエースに見えた景色

 「良い角度はついた。どうか」

 ボールは外野席で跳ねたか、に見えた。内野からは歓声が飛び、三塁コーチは大喜びしていた。「ソロ本塁打」。石井はそう思い、感情を爆発させて本塁を踏んだ。

 ところが、ベンチに戻ったタイミングで、外野席の観客や相手の左翼手から「入っていない」と声があがる。審判団は協議の末、フェンス上部に当たった「二塁打」と判定を覆した。

 場内放送で周知された瞬間、石井は落ち込むそぶりも見せずにベンチを飛び出した。「球場の雰囲気というか、チームを盛り上げたかった」。ざわつく空気を振り切るように、二塁ベースをめがけて全力でダッシュした。

 審判団が判定を協議している間、喜ぶチームメートをはた目に、石井は心づもりをしていたという。「ホームランと思い込んでいたら、(判定が)違ったときに自分まで落ち込んじゃうので」。周囲には冷静に「かえしてくれ」と声をかけていた。

 その言葉通り、後続が適時打を放って石井は本塁に生還。もう一度、沸き立つベンチへ迎え入れられた。

 チームはその後も打線がつながり、最後は石井の適時二塁打で8回コールド勝ちを決めた。「結果、爆発力のある打線を見せられましたし、チームが勝ったことが一番です」。チーム思いの主軸は、そう言ってほほえんだ。

共有
Exit mobile version