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(7日、第107回全国高校野球選手権東東京大会、郁文館7―4東京実)

 なんとしても流れを変えたかった。

 九回表、1死一塁の場面。マウンドに立った東京実の主将、嶋崎智慧(ちさと)(3年)は右腕を大きく振り、一球一球、気迫の投球で打者を抑えた。

 この回、郁文館に7点目を奪われると、選手らは次第に重い空気に。「雰囲気を変えるのは自分のピッチングしかない」。松田稔監督に自ら志願してマウンドに向かった。

 「ベストボールだった」という変化球が決まり、これ以上の点は許さなかった。だが、九回裏の攻撃、三者凡退に終わった。泣かないと決めていたが、「試合に出られなかった3年生に申し訳ない」。涙があふれた。

 昨年秋の都大会初戦。ミスがきっかけで負けた悔しさがあった。敗戦をバネにチームはこの冬、バッティングと走り込みを強化。全員で25キロを完走するなど、力をつけてきた。

 1年時からベンチ入りしてきた嶋崎は、自分のプレーで何とかしようという思いが先立ち、主将になってからも厳しいことを言ってきた。でも、最後の夏は違った。「東京実業らしい泥臭い野球をする」。全員でつかむ勝利にこだわった。

 この日、郁文館の立ち上がりを攻め、一回に一挙4点を先行。嶋崎は1番打者として安打で出塁し、流れを引き寄せた。五回に2点を返されたが、2点リードの状態で前半を終えた。

 嶋崎はクーリングタイムで、「気を引き締めていかないと勝てない」とチームを鼓舞。その言葉に士気も高まり、六回に併殺、七回には二盗を阻止し、相手に流れを渡さなかった。先発した藤田徠蓮(らいれん)(2年)が八回まで粘投していたが、二回以降は打線が郁文館の投手陣を打ち崩せなかった。

 突破できなかった夏の初戦。悔しさはあるが、「これまでやってきたことは間違いではなかった」と嶋崎。平日の神宮球場には、応援に駆けつけた仲間たちの大声援が響いていた。「自分たちは本当に幸せもの」。忘れられない光景だった。

 今後も野球を続け、プロを目指す。部員73人のチームをまとめられた自信を手に。

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