人なつっこく、牧場主が向けたカメラに鼻を寄せる2歳3カ月ごろのサクラ=北海道遠軽町白滝、佐藤牧場提供

 頭に桜の花びら模様がある子牛が生まれた。夫婦は「サクラ」と名付けた。エゾヤマザクラが咲き始めた4年前の春だった。

 北海道東部の遠軽(えんがる)町。佐藤貴啓(たかあき)さん、みどりさん夫婦が営む牧場は35頭の牛を飼育する。

 サクラは、おとなしく人なつっこい牛だった。

 食事の時間に呼ばれても、いつも群れの最後の方を歩いてくる。放牧地で人の姿を見つけると鼻をスリスリと寄せてくる。牛舎に入る時には、貴啓さんがいる方に必ず近づいてきて「あいさつ」してから入る。

 同じ年に生まれた夫婦の長男、杜至(とうじ)くんも「モーモーさん」と呼んでかわいがった。

 だが、サクラには宿命がある。

 子牛を産み、母になること。その乳が製品となり、市中に出回る。

まだふわふわな毛のサクラ=2022年2月9日、北海道遠軽町、鈴木優香撮影

 乳牛に出産はつきもの。人を極度に怖がったり気性が荒かったりする牛は、酪農には向かない。脱走した時や難産の時に、人にけがさせる可能性があるからだ。

 サクラは性格的には扱いやすかったが、安産型の対極とも言える骨盤の狭さが不安要素だった。

 2歳。初産を終えた。子はおなかの中で十分育たず命を落としたが、サクラは元気に乳を出していた。

 3歳。今度は元気な女の子が生まれた。

 ただ、サクラはそのころから…

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