英国推理作家協会(CWA)が優れた犯罪小説やミステリー小説に贈るCWA賞(ダガー賞)の翻訳部門に、「ババヤガの夜」の英訳版「The Night of Baba Yaga」(サム・ベットさん訳)が、日本作品として初めて選ばれた。著者の王谷晶さんにエッセーを寄せてもらった。
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専業作家になって十三年ほどになる。一般的な作家になる道、たとえば新人賞を受賞したり、ネットで発表していた小説が話題になり出版社にスカウトされる、という経路ではなく、ライター業をしている中で知り合った出版業界の方々に「小説も書けますよ」と折に触れアピールしていたら、少しずつ依頼をいただくようになり、それがいつの間にか本業になっていた感じだ。今までシナリオや雑誌、カタログ、パンフレット、ウェブメディアなど、いろいろな所に文章を書いてきた。テキストを書いて食っていければそれで満足だ。なので小説も特に一つのジャンルに絞ることはなく、エンタメ寄りのものから純文学誌に載るものまで、書けるものを書けるように書いている。日本の出版業界は版元やレーベルがわりと明確にジャンルで分けられており、おのずと作家も「この人は〇〇作家」という肩書を付けられやすい。以前家族に「ところでお前は何の作家なんだ」と訊(き)かれたことがあるが、私は答えられなかった。なんなんでしょうね。自分でもわからん。ただの作家です、なんていうとちょっとかっこつけすぎてしまう気がするが、他に言いようがない。
『ババヤガの夜』は河出書房…