Smiley face

(第106回全国高校野球選手権大会)

 甲子園の周りを歩くとやや荘厳な「野球塔」が南側にそびえる。

 2010年に再建されたもので、初代の野球塔はこの大会の前身、全国中等学校優勝野球大会の第20回を記念し、1934年8月11日に完成した。数奇な歴史を重ね、ちょうど90年になる。

 初代は高さ約30メートルの白い高塔と階段型の観覧席を組み合わせた建物で、柱には歴代の優勝校名を刻んだ銅板が飾られていた。代表校の選手が記念撮影したほか、大会前日には出場選手の茶話会が開かれるなど、甲子園の一つのシンボルでもあった。

 だが、銅板は戦時中の金属供出で軍に差し出され、野球塔は太平洋戦争中の空襲などで崩壊した。それでも、のちに4枚が見つかった。そのうち1枚は選手権大会で唯一3連覇した愛知・中京商(中京大中京)の第18回大会(32年)のものだ。

 歴代最多7度の全国優勝を誇る伝統校はこの日、選手権通算100試合目を迎え、79勝目(21敗)を飾った。水野啓哉部長によると、銅板は同校のエントランスに飾られ、選手はOBとの交流などから戦没者もいる部の歴史を学んでいるという。

 同校OBで野球部長として全国優勝に導いた瀧正男さん(2018年に特別表彰で野球殿堂入り)は生前、戦地に赴いた体験から「球児が戦地にいかない時代が続いてほしい」と願っていた。

 銅板はほかに、第20回大会を制した呉港中のものが甲子園歴史館に飾られている。戦争を知る人々が減る中、甲子園を通して学べる歴史もある。(笠井正基)

共有