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ライフジャケットを着て浮き方を確認する参加者たち=東京都江戸川区

 あとを絶たない海や川での水難事故。溺れたり流されたりすることは、誰にでも起こり得ると認識してもらおうと、水辺の安全にかかわる関係団体が発信を始めている。

東京五輪の競技会場で「溺れ体験」

 東京五輪の競技会場にもなった東京都江戸川区のカヌー・スラロームセンター。

 ここで6月下旬、スイミングインストラクターや教員、ライフセーバーら指導者向けの溺れ体験会が開かれた。子どもたちに水泳を教える立場の22人が参加。人工の激流コースを利用し、川や海で流されたときの対処法を学んだ。

 「溺れた経験がある人は、水に入る前の準備運動をしっかりしたり、助けを呼ぶときのサインを知っていたりする。実際に溺れる体験をしてみることで、水難事故を『自分事化』し、備えておける」

 体験会のインストラクターを務めた日本ライフセービング協会の松本貴行副理事長はそう話した。

 参加者たちは、ライフジャケットの着用方法を改めて確認してから、川や海を想定したコースに入った。

 コースは、カヌー競技向けに、激流をシミュレーションできるようになっている。参加者たちは激流の競技コースで川の流れを体験。川で流された際は仰向けになって川下に足を向け、つま先は水面に上げるようにしてラッコのポーズをとるようにアドバイスを受けた。

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川の流れを体験する参加者=東京都江戸川区

離岸流に巻き込まれたら

 海を想定した緩やかなコースでは、岸から沖へ向かって流れる離岸流に見立て、巻き込まれる状況を体験した。

 水の流れは、速い場所は秒速2メートルに及ぶ。参加者たちはそれぞれ、平泳ぎやクロールで流れに逆らってみるものの、「あらがえない」「長時間は持たない」と感想を話していた。

 離岸流は、突堤がある場所などで発生する沖向きの水流で、海岸線のどこでも発生する可能性があり、つかまってしまうと一気に沖まで流される。

 協会によると、海水浴場での溺水(できすい)事故の約50%で離岸流がきっかけになっていたという。

 流されてしまった場合は、逆らうのではなく、流れから外れるように岸と平行に泳ぐことが重要という。離岸流の幅は10~30メートルほどのため、しばらく泳げば抜け出せる可能性が高い。

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離岸流をイメージした流れにあらがって泳ぐ参加者たち=東京都江戸川区

 体験会に参加していた東京都の会社員作山樹子さん(37)は、ベーシック・サーフライフセーバーの資格を持ち、ボランティアで小学生の遠泳指導をすることがあるという。「自分が体験しておかないと子どもに伝えられないこともある。海と川では対処法が異なることも学んだので、教えていきたい」

昨年は816人が犠牲に

 警察庁のまとめでは、昨年、海や川などでは816人が犠牲になり、前年に比べ73人増えた。このうち中学生以下は28人で、令和に入って以降、26~31人で推移している。

 協会の松本さんは「水難事故は毎年のように繰り返され、なかなか減っていかない。指導者や子どもたちが、静かなプールだけでなく、溺れてみるような実践的な体験をできる機会があると、水辺での行動が変わってくるのではないか」と期待する。

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カヌー・スラロームセンターで開かれた溺れ体験の参加者たち=東京都江戸川区

■溺れかけた理由をイラストで…

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