猛暑や寒波、豪雨、干ばつなどの異常気象が起きたときに、「偏西風の蛇行」という説明をたびたび耳にする。偏西風の影響は日本だけにとどまらす、世界に広がるが、わからないことも多い。
偏西風は中緯度地域の上空を西から東に吹く風のことだ。上空9~12キロ付近が一番強く、ジェット気流と呼ばれる。極域に近い寒帯前線ジェット気流と赤道に近い亜熱帯ジェット気流がある。一年を通して吹いているが、夏よりも冬の方が強いという傾向がある。日本付近で天気が西から変わっていくのは、偏西風のためだ。
1898年の統計開始以降、2024年は23年と並んで日本の観測史上最も暑い夏となった。熱中症の死者は2千人を超え、過去最多を記録した。気象庁の異常気象分析検討会は、猛暑の要因の一つについて、「日本付近で亜熱帯ジェット気流が持続的に北に蛇行し、西日本を中心に、対流圏の上層までのびる背の高い暖かな高気圧に覆われ続けた」としている。
なぜ偏西風の蛇行が問題になるのか。
偏西風は、暖かい空気と冷たい空気の境目に吹く。赤道側には暖気、極側には寒気があり、赤道側は高気圧に、極側は低気圧になる。
東京大の小坂優准教授(気候力学)は「偏西風が南北に蛇行すると、暖気の北上、寒気の南下をもたらす」と話す。
北に蛇行した地域の南側は暖かい高気圧に覆われる。反対に、南に蛇行した地域は冷たい低気圧に覆われる。蛇行の幅は数千キロに及ぶが、蛇行が長期間とどまると、いつもと違う気象条件になる。
西日本豪雨のあとに「災害級の暑さ」
たとえば18年7月中旬は、全国的に記録的な高温となり、「災害級の暑さ」となった。埼玉県熊谷市で国内で観測史上最高の41.1度を記録した。このときも偏西風が北上し、蛇行していることが要因の一つになっていた。同時期に北欧も熱波に襲われ、北極圏で30度を超えた。
日本の夏の場合、上空のジェット気流の揺らぎの原因の一つは、西からやってくる蛇行だ。欧州から高気圧と低気圧が交互に並ぶと、偏西風が蛇行を起こす。「シルクロードテレコネクション」と呼ばれる。欧州で大きな高気圧が居座ると、日本でも熱波が起こりやすくなるという。
小坂さんは「瞬間瞬間でみれば、蛇行自体は常にある。ただ、その波長によっては蛇行の状態が持続的になり、同じところに高気圧や低気圧がずっと留まってしまう。すると、場所によっては熱が蓄積して気温が上がっていく」と話す。
逆に、この年の7月上旬には、朝鮮半島付近で偏西風が南に蛇行しており、西日本に梅雨前線が停滞。上昇気流が起きやすい状態になった。南から多量の水蒸気を含む気流が流れ込み、記録的な豪雨(西日本豪雨)をもたらした。
異常気象の研究をする京都産業大の高谷康太郎教授は「日本のような中緯度地域で起きる異常気象では、ほぼ偏西風の蛇行をともなっている」と話す。
偏西風の蛇行はなぜ起きるのか。
多くの研究者は基本的に自然…