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臨時県立学校長会議で岩手モデルについて説明する佐藤一男・県教育長=2024年5月28日、盛岡市山王町、佐藤善一撮影
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 2018年7月に岩手県立不来方高3年の男子バレーボール部員だった新谷翼さん(当時17)が顧問からの暴言や叱責(しっせき)などを理由に自死した問題で、県教育委員会は28日、再発防止「岩手モデル」を策定し、公表した。県教委と学校は、自死の背景などを検証した第三者委員会から対応の不備を指摘されていた。生徒が命を絶ってから約6年を経て、ようやくスタートラインに立った。

 県教委はこの日、臨時県立学校長会議を開き、岩手モデルの策定経緯と再発防止に向けた取り組みについて説明した。

 岩手モデルは冒頭で、なぜ新谷さんが自死に至ったのか、一因になった学校や県教委の対応を振り返り、不適切だった対応を細かく検証した。

 新谷さんに暴言を繰り返した男性顧問が、前任校の盛岡一高でも体罰を加え、元生徒から提訴されていたにもかかわらず、その情報が県教委から異動先の高校に伝えられていなかったことを問題視。第三者委からも不手際を指摘されたため、岩手モデルには「不適切な指導を行った教職員について、異動時に関係文書を確実に引き継ぐように指導する」と定めた。

 また、児童生徒らから不適切な指導の申し出があった場合、内容が明らかに不自然でない限り、当該教職員を部活動指導から外す▽教職員は岩手モデルの具体的な取り組みを理解した上で指導する旨の宣言書を提出する▽部活動に関わる教職員全員が指導者研修を受けることを義務づける▽暴力や不適切な言動があった教職員に対し、二度と不適切な指導をしない旨の誓約書を提出させ、1年間の事後研修を実施する。状況の改善が確認されるまでは部活動指導に復帰させない――なども盛り込んだ。

 外部専門家が学校や県教委の取り組みを定期的に点検し、必要に応じて見直しを図ることも確認した。

 この日、岩手モデルを推進するため、今春設置された服務管理監は会見で「つくって終わりではなく、実践をして改善をし、常に見直しをしていく。児童生徒の命が奪われるようなことを二度と起こさないことを誓い、学校、教委が一丸となって取り組んでいきたい」と決意を述べた。

 市町村所管の県内の小中学校や私立学校にも岩手モデルを周知していくという。県教委は20年11月に策定委員会を設置し、12回の協議を重ねてきた。

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 新谷翼さんの自死に端を発し、学校や県教委の不適切な対応がいくつも明らかになった。

 亡くなった新谷さんは約197センチの長身を生かし、中学、高校で全国選抜チームに選抜された選手だった。県教委の調査で、新谷さんは男性顧問から「使えない」「背は一番でかいのにプレーは一番下手」などの暴言を繰り返し受けていた。

 しかし、詳細な調査や検証が実施されていない段階で、学校長は「行き過ぎた言動はなかった」と発言。男性顧問の暴言や指導と自死との関連を否定した。

 男性顧問は前任校の盛岡一高バレー部でも生徒に体罰を加えて提訴され、賠償金の支払いを命じられた。県教委の担当者は裁判で顧問が体罰を認めたことを把握していたが、異動先の学校に情報を伝えていなかった。

 盛岡一高の件では、生徒の保護者が学校や県教委に、再三事実確認するように訴えたが、県教委は受け身の姿勢に終始し、学校も消極的だった。最も尊重すべき生徒側の声が軽視されていた。

 これらを踏まえ、20年7月に公表された第三者委員会の調査報告書でも、「県教委は顧問の指導の内実を軽視し再発防止に生かそうとする姿勢に欠けていた」とし、指導や対応を怠ったことが本件事案につながった可能性は否定できないと結論づけられた。

 県教委は23年3月、情報を伝えていなかった職員2人を戒告の懲戒処分にし、「情報を共有していれば顧問を外すなどの対策ができ、(自死を)防げたかもしれない」と謝罪した。第三者委の報告書では顧問の暴言が新谷さんの孤立感や絶望感を一層深める一因になったことも認めた。

 再発防止に向け協議が進む中でも、学校現場では体罰はなくなっていない。生徒に暴言を繰り返したとして、今年3月に県立高の教諭を停職5カ月、5月にも教諭を減給3カ月の懲戒処分にした。

 学校は子どもたちが安心して学ぶ場だ。自尊心が傷つけられ、苦痛に耐える場所ではない。子どもにとって学校、教諭は権力者だ。嫌でも上下関係がある。県教委、学校は誰を守ることを優先するのか。子どもと上下関係に陥りやすいことを自覚し、自分たちの判断に間違いがないか、常に気を配ってほしい。(佐藤善一)

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岩手モデル策定に至る経緯

2018年7月 バレーボール部に所属する県立不来方高3年の新谷翼さん(当時17)が自宅で自殺。遺族は「バレー部顧問の指導が自殺につながった」と主張

18年9月 高橋嘉行・県教育長(当時)が「痛恨の極み。今後このようなことがないようにしていかなくてはならない」と初めて公式に見解を述べる

18年10月 新谷さんが通っていた高校の校長が「(顧問に)行き過ぎた言動はなかった」と発言したことについて、県教委は「行き過ぎた言動などを全面否定したと受け取られかねない。慎重さを欠いた」と指摘

18年11月 新谷さんの遺族が顧問の男性教諭を暴行容疑で県警に刑事告訴

19年1月 県教委が設置した第三者委員会が初会合。自死にいたるまでの事実経過や背景、自死と学校生活の関係性など5項目について検証を始める

19年2月 男性顧問が以前に勤務した県立盛岡一高の卒業生が、顧問から受けた体罰が原因で不登校になり精神的な苦痛を受けたとして顧問と県に約200万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が仙台高裁であった。20万円の支払いを命じた一審判決を変更し、賠償額を40万円に増額した

20年4月 盛岡地検は暴行容疑で刑事告訴された男性顧問を不起訴処分にしたと発表。遺族によると、地検から「複数の目撃証言があったが捜査協力が得られず、公判を維持する証拠が集まらなかった」と説明されたという

20年7月 第三者委が調査報告書を公表。男性顧問の叱責(しっせき)や暴言が、絶望感や孤立感を一層深める一因になったと結論づけた。再発防止策の策定などを提言

20年11月 県教委が再発防止「岩手モデル」策定委員会を設置

22年6月 県教委が15~18年度にバレー部の複数の部員に対し、不適切な言動があったとして、男性顧問を懲戒免職にしたと発表。同期間の副校長5人を戒告処分にした

23年3月 男性顧問が前任校で体罰を加えていたにもかかわらず、その情報を管理職に伝えていなかったとして、当時の県教委職員2人を戒告処分

24年5月 再発防止策をまとめた「岩手モデル」を公表

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