石川県のとある「鳥」が今春、関係者をざわつかせた。鳥は、金沢市の兼六園近くで見ることができる雄のキジ。県が大切に守ってきた一羽が、19年ぶりに県外へとお出かけしたのだ。
「いまはただ〝お帰り〟を待ち望んでいる」。6月初旬、そう語ったのは、兼六園そばに立つ県立美術館の谷口出(いずる)副館長(71)。お出かけしたのは美術館所蔵の陶器のキジ。京焼の名陶工・野々村仁清が残した写実的な国宝「色絵雉香炉(いろえきじこうろ)」だ。香炉とは、香をたくもので、茶道では空気を清めるものとして重宝された。実際に香の煙出しの付近はやや焦げた跡が残り、たびたび使われていたことを示している。
こまやかでかつ、緑や赤、青といった色鮮やかな絵付け、焼成の技が評価されている。幅約48センチ、高さ約18センチと大ぶり。長い尾があり、成形や焼成は簡単ではないが、尾を水平に保ったまま造形されている。
谷口さんは、「それまでの日本の技術では、陶器できれいな色を表現できなかった」と、その価値を語る。
香炉を正面から見ると、キジの首から頭はやや左に傾いており、左右均等ではないところもユニークだ。
県内にある国宝は、この香炉を含め2点だけ。文化庁によると、国宝全体をみても国内で作られた陶磁器は5点といい、その希少性がわかる。
19年ぶりとなったキジの「旅先」は大阪・通天閣近く。大阪・関西万博に合わせ、大阪市立美術館で開かれている特別展「日本国宝展」(4月26日~6月15日)で紹介され、人目を引いた。
県立美術館にオファーがあっ…