2024年度第73回朝日広告賞の受賞作品が決まった。広告主が出した課題に基づく作品を公募した「一般公募」(応募総数1694点)では、「新聞広告の部」で着付け教室の広告が、「デジタル連携の部」ではとバスの広告が最高賞を受賞した。
【一般公募・新聞広告の部】
〈にんきもの?〉
「にんきもの?」という言葉とともに、外国人観光客が楽しそうにこちらを見て、カメラを構えている。着物を着ている人が一切出てこないが、着付け教室の広告だ。
大阪にある広告会社に勤める奥野真由さん(28)は、浴衣を着た時の体験に着想を得たという。「いつもより視線を感じ、話しかけられることもある。それを追体験できたら」。キャッチコピーは着物と掛けた。
撮影したのは、高校の同級生でカメラマンの難波航太さん(29)。米国のミックスルーツを持つ友人に相談すると、知り合いを呼んでくれた。「新聞広告は写真1枚での勝負。インパクトを大事に撮った」。撮影場所は、2人の地元・岡山県倉敷市。2人の思いと縁がつながり、あたたかみがにじむ作品になった。
【一般公募・デジタル連携の部】
〈はとバス目線ツアー HATOBUS View Tour〉
「バスに乗って東京を回って、何を見るんだろう」。そう思った電通の山岸奏大(かなた)さん(26)は、協働した同社の後輩馬場陸斗さん(24)、多摩美大大学院の角替(つのがい)祐太さん(24)と、はとバスに乗った。
徒歩とは違う視点で街を見る楽しさを感じたといい、バーチャルのバスツアーに落とし込んだ。暗い高架下を抜けて再び明るくなる視界、頭上で交錯する首都高など「ここがおもしろい、と感じたシーンを再現した」と、角替さん。馬場さんは「はとバスのロゴを建物に見立てて3Dモデリング。広告という限られた尺でも乗車体験が伝わるよう、デフォルメした」。
「そこから見るよりおもろいぞ。」の言葉通り、スマホを置いてバスに乗りたくなるような作品になった。
審査評・篠原ともえさん
【審査評】篠原ともえ(デザイナー) 毎年、個人的にも注目している「彩きもの学院」。今年は、着物を着ている人は掲載されていません。にもかかわらず、着物をまとった美しい姿が見えてくる点が「広告としての殻を破るもの」と高評価につながりました。ファッションとは、周囲からリアクションを受け取ることができるコミュニケーションツールでもあることを改めて教えてくれました。(広告主参加の)yoshie inabaのドラマチックな一枚絵も、私自身ファッションを愛する一人として込み上げるものがあります。いつまでも心地の良い、抱きしめたくなる〝余韻がある〟。そんな選出でした。
審査評・辻愛沙子さん
【審査評】辻愛沙子(クリエーティブディレクター) 情報の届け方も受け取り方も大きく変わる時代の中で、どんなアイデアが出てくるのか楽しみにしていました。デジタル施策で陥りがちな落とし穴として、体験設計のユニークさやユーザビリティーにクリエーティブリソースが取られすぎて、グラフィックとしてのビジュアルの強さ、クラフトが等閑(なおざり)になってしまうケースがあります。「はとバス目線ツアー」は、その落とし穴を優に越えてくる新聞30段のデザインの美しさや、体験動画の構図の新しさが強く目を引きました。次なるアイデアを切り開くのは今これを読んでいるあなたかもしれません。
朝日広告賞サイト(https://www.asahi-aaa.com/)でも、受賞作品のほか、受賞者や審査委員のインタビューなどを掲載予定です。
受賞者一覧
〈新聞広告の部〉
●朝日広告賞(賞状、賞金100万円と記念品)1点
◇彩きもの学院の課題〈着物を美しく着る文化を後世に引き継ぐ〉による奥野真由、難波航太の合作
●準朝日広告賞(各賞状、賞金30万円と記念品)3点
◇岩波書店の課題〈『広辞苑』〉による大金慎の作品
◇丸美屋食品工業の課題〈のりたま〉による金山千咲、六笠詩音、大濱元輝の合作
◇国際協力機構(JICA)の課題〈若年層の方がJICA海外協力隊に思わず参加してみたくなる広告〉による川﨑太呂の作品
●入選(各賞状、賞金10万円と記念品)10点
◇文藝春秋の課題 中久喜晴人、木村朱里、青木玲の合作
◇新潮社の課題 入江亮介、市野花、小幡悠矢の合作
◇平凡社の課題 栗本真亜人、武田麻鈴、坂本忠謙、西本凌也の合作
◇ABJの課題 平岡悠稀、菅野里菜の合作
◇キッコーマンの課題 篠﨑千穂、長谷川柚香の合作
◇マイナビの課題 入江亮介、市野花、小幡悠矢の合作
◇新潮社の課題 石神慎吾、野田智菜実の合作
◇キッコーマンの課題 出口柚月の作品
◇パインの課題 黒田夏葉の作品
◇大塚製薬の課題 徳田敦彦、池尻元輝、勝見寿々香、久岡崇裕の合作
●小型広告賞(各賞状、賞金10万円と記念品)2点
◇新潮社の課題 市原雅章、井堀遥、松井一紘の合作
◇岩波書店の課題 山口敏生、永髙裕太、中島海斗の合作
●審査委員賞(各賞状、賞金10万円と記念品)3点
〈コピー賞〉
◇新潮社の課題 谷口泰星、小比類巻洋太、立花泰成の合作
〈写真賞〉
◇平凡社の課題 北川秀彦、ミウラユウタ、三宅幸代の合作
〈イラストレーション賞〉
◇新潮社の課題 吉村優作、浦野夏実、寺西安奈の合作
●学生奨励賞(各賞状、賞金10万円と記念品)2点
◇石塚硝子の課題 樋口鈴音の作品
◇岩波書店の課題 堀翔太の作品
●朝日新聞読者賞(賞状)1点
◇新潮社の課題 阿久津裕亮、立田大貴の合作
〈デジタル連携の部〉
●朝日広告賞(賞状、賞金100万円と記念品)1点
◇はとバスの課題〈はとバス〉による山岸奏大、馬場陸斗、角替祐太、小林健太郎、米田昌生の合作
●準朝日広告賞(賞状、賞金30万円と記念品)1点
◇森林文化協会の課題〈森を育て、温暖化から地球を守る〉による宮坂和里、重見果歩の合作
●入選(各賞状、賞金10万円と記念品)5点
◇Gakkenの課題 紺谷真悟の作品
◇エコリカの課題 二ツ橋和樹、藤岡慧、池田知徳の合作
◇筑摩書房の課題 金是延、岩熊萌衣の合作
◇トンボ鉛筆の課題 渡邉大介、名倉航大、坂本龍士郎の合作
◇Gakkenの課題 米谷颯太、伊藤大貴、佐藤彰人、河本麻伊、三上恵実の合作
●朝日新聞読者賞(賞状)1点
◇筑摩書房の課題 金是延、岩熊萌衣の合作(敬称略)
審査委員
一般公募
▽新聞広告の部・デジタル連携の部担当
川口清勝、箭内道彦、戸辺久之
▽新聞広告の部担当 浅葉克己、葛西薫、国井美果、児島令子、小杉幸一、佐藤卓、篠原ともえ、副田高行、瀧本幹也
▽デジタル連携の部担当
石戸奈々子、辻愛沙子、米澤香子
(順不同・敬称略)