東洋大姫路―壱岐 アルプススタンドの大観衆を背に、力投する壱岐先発の浦上=滝沢美穂子撮影

 人口2万4千人の離島にある壱岐(長崎)が20日、第97回選抜高校野球大会の初戦に臨んだ。遠征にも苦労する環境を「ハンデにしない」という坂本徹監督(40)の創意工夫で成長した選手たちが、21世紀枠でつかんだ初の甲子園。「100年に1度の奇跡」と喜ぶ島関係者3千人以上がスタンドを埋め、大声援を送った。

 アウト一つ、ストライク一つで壱岐のアルプス席から大きな歓声が上がる。初回のピンチを切り抜けると、その裏、制球が定まらない相手エースを攻めて2死二、三塁の絶好機。5番の山口廉斗選手(3年)がフルカウントから低めの変化球を振り抜くと、一、二塁間をしぶとく破る先制の2点適時打に。「応援のおかげで打てた」と感謝した。

 坂本監督は「大舞台でも落ち着いて、自分たちのプレーができていた。先制はびっくりした」と目を細めた。

 壱岐島から九州本土の博多港(福岡市)や唐津東港(佐賀県唐津市)まではフェリーで約2時間。坂本監督は移動時間をミーティングに充て、選手の1試合を大事にする意識を高め、少ない実戦経験を補ってきた。

 1回の遠征費は、チーム全体で約30万円。保護者らの負担を軽くする知恵も絞る。福岡へは高速船もあるが、使うのは運賃が半分ほどのフェリー。着いた港から、マイクロバスのハンドルを握る坂本監督は、部員より先に島を出て福岡よりレンタカー代が安い唐津の店で車を借り、選手を乗せたフェリーが着く博多に向かうこともある。

 高校時代は波佐見(長崎県波佐見町)の外野手で2年夏に甲子園を経験した。2020年8月に壱岐の監督に就任。23年入学の浦上脩吾主将(3年)や山口選手ら主力は中学で九州大会優勝や全国大会出場の実績があったが、すぐに結果は出なかった。

 多くの選手は1年秋から出場したが、県大会は初戦敗退。相手は同じ離島の対馬・上対馬・壱岐商の連合チームで「勝てるはず」の相手だった。

 坂本監督は「過去は過去。中学とは違うぞ」と一喝。その後も初戦敗退が続いたが、昨秋、走攻守の練習から身だしなみ、体調管理など様々な分野の「リーダー」を任命した。選手自ら考えて動くようになると、その秋の県大会で準優勝し、初の九州大会でも1勝。甲子園につながった。

 島は少年野球が盛んで、中学の軟式チームのレベルも高い。坂本監督は「中学までの指導者の方に高いレベルにしていただいた」と感謝する。

 20日の初戦は敗れたが、山口選手は「応援は壱岐が勝っていたと思う。夏もう一度、島の人たちと甲子園に戻ってきたい」。坂本監督は「甲子園で一つひとつ、全国レベルのプレーを感じられた。離島を言い訳にせず、今度は自力で甲子園に戻れるようにレベルアップしたい」と語った。

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