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帝国の幻影 壊れゆく世界秩序

連載「帝国の幻影~壊れゆく世界秩序~プーチン氏が描くロシア」【4】

 「フィンランドが捕虜にしたソ連兵のうち1万9千人が、虐待や銃殺で死亡した」

 モスクワのフィンランド大使館前に昨年5月、6枚の大きなパネルが展示された。第2次世界大戦を中心に隣国フィンランドがナチス・ドイツとともにソ連を攻撃した「歴史」を紹介する。設置したのは、プーチン大統領が命じて設立された、側近のメジンスキー大統領補佐官が会長を務める政府系団体「ロシア軍事歴史協会」だ。

  • 【前回はこちら】小泉悠さんが語るプーチン氏の世界 シマ分け合う大国にあらがえるか

 歴史をたどると、最初に攻撃を始めたのはソ連の方だ。1939年11月、不可侵条約を破棄してフィンランドに侵攻。ソ連はこの侵攻で国際連盟から除名されたが、フィンランドは約2万5千人の戦死者を出し、領土の約1割を失った。41年6月にナチス・ドイツがソ連に侵攻した際、フィンランドが枢軸国側についてソ連を攻めたのはこのためだった。

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フィンランドが領土拡大の野望から、ナチス・ドイツと手を結んでロシアを攻撃した、と批判するフィンランド大使館前のパネル。ロシアの「被害者意識」を徹底して強調する=2025年5月、モスクワ

 しかし、「フィンランドのロシア嫌悪症(ルソフォビア)」と題したパネル展は、全ての戦いを防衛戦とする。徹底して描かれるのは、被害者としてのソ連であり、「敵」への憎悪をあおる。

「欧米はロシアを差別」

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