小説家・宇野碧の「回り道しかしていない」
『眠たくなる飲み屋 改革が違う これは餃子(ぎょうざ)』
この暗号のような文は何かというと、息子の言葉を聞き取ったスマホが創り出した言葉だ。
スマホのタップ入力が面倒で仕方ない私は、LINEの返信などはもっぱら音声入力している。その時も、友人への返信文を音声入力している最中に、10歳の息子が大きな声でひとりごとを言っていた。内容は忘れたけれど、洗面所で手を洗いながら、新しいハンドソープの洗浄力の高さを称(たた)える何かを言っていたように思う。
私が一瞬沈黙したスキにスマホは息子の声を拾い、冒頭の文が勝手に入力された。距離があったせいなのか、一言も合っていない。完全なるスマホの聞き間違いである。しかし、偶然に生まれた言葉をただ削除してしまうのはもったいなく、手帳に書き留めておいた。
ところで。大学時代の同級生で、テレビ番組「タモリ倶楽部」の「空耳アワー」コーナーが大好きで、そこだけ録画してまとめている子がいた(知らない人のために一応解説すると、洋楽の中でふと日本語みたいにきこえる瞬間をとらえ、英語の歌に空耳できこえた日本語を字幕で当てるというコーナーで、VTRとの相乗効果が秀逸だった)。
ある日、「空耳アワーをまと…