【動画】福井女子中学生殺害事件 再審の初公判

 名古屋高検金沢支部にある、取調室ほどの小さな会議室。

 2023年8月、弁護士4人が分担して机上の書面を確認する中、1人が声を上げた。

 「変なことが書いてある」

 手を止めたのは、検察から開示されたばかりの5枚つづりの捜査報告書。テレビの歌番組について書いてある。

 4人は、裁判のやり直し(再審)を求める男性の弁護団。男性が「殺人犯」とされる決め手となった目撃証言の一つが、この歌番組にまつわるものだった。

 証言は概略、こんな内容だった。

 《「夜のヒットスタジオ」というテレビ番組でアン・ルイスと吉川晃司のいやらしい場面を見ていたとき、電話があった。呼ばれて出かけた先で、服に血が付いた男性と会った》

 捜査報告書には、この場面の放送日が、事件とは別の日だったと記されていた。目撃証言と明らかに矛盾する内容だ。

 捜査報告書の作成日は1989年1月28日。男性の裁判が続いていた時期だ。検察側はこのとき、目撃証言と食い違う事実の存在を把握しながら、隠していたことになる。

 じつは弁護団は、捜査報告書が開示される5カ月前に、放送日が間違っている可能性に気づいていた。きっかけは、弁護士の1人がAI(人工知能)に《吉川晃司とアン・ルイスが行ったいやらしい踊りは、どんなものかわかりますか?》と聞いたことだった――。

逮捕から38年。女子中学生を殺害した罪で有罪判決を受け、服役した前川彰司さん(59)の再審が3月6日、始まります。物証はなく、有罪判決の決め手となったのは関係者の「供述」でした。その問題点を全3回の連載で考えます。

つくられた供述 福井事件 38年後の再審=デザイン・廣戸美香

逮捕された21歳、容疑支えた証言

 バブル景気が始まり、使い切りカメラ「写ルンです」が発売された86年。事件は3月19日の夜に起きた。

 福井市の市営住宅の一室で、中学3年の女子生徒(当時15)が灰皿で頭を殴られ、電気カーペットのコードで首を絞められ、顔や胸など数十カ所を包丁でめった突きにされて殺された。女子生徒はこの日に卒業式を終え、1人で留守番をしていた。

 約1年後、殺人容疑で逮捕されたのが、当時21歳の前川彰司さんだ。

 事件との関わりを示す物証はなく、福井地裁は90年に無罪を言い渡す。だが、名古屋高裁金沢支部は95年、懲役7年の有罪判決を下し、確定した。

 有罪の決め手となったのは、「事件の夜、前川さんの手や服に血が付いていた」という10~20代の複数の知人らによる目撃証言だった。証言が事件当日のことだと裏付ける根拠として、複数の人物の供述調書に「その日、アン・ルイスと吉川晃司のいやらしい場面を見た」と言及されていた。

「どんな場面?」AIに尋ねると…

 一体どんな場面なのか。前川さんの再審を求める弁護団の中で話題になった。

 その1人、中川元(はじめ)…

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