「立ち直り」を考える デザイン・廣戸美香

 その一言に一瞬、心臓が凍りついた。

 男性(26)は、働いている居酒屋の従業員や社長が集まる飲み会の席にいた。盛り上がるなか、社長がこっちを向いて突然言った。

 「君が前科者でもいい」

 急な言葉に、どきっとした。

 社長にも職場にも、自分が元受刑者ということは黙っていた。この場で、過去を暴露しろということなのだろうか。うろたえていると、社長は言った。

 「今の君を知っているから。それはそれでいい。ちゃんと働いてくれるなら」

 その場は笑いにつつまれた。周りの従業員たちは「また、そんな話してる」とはやしたてた。

 社長はどうやら、そんな話をよくするらしい。驚いたが、気が楽になった。

 男性は昨年4月から、この居酒屋でアルバイトを始めた。10月から正社員になり、週に6日、料理長として厨房(ちゅうぼう)に立つ。

 上司から「こんな料理をつくってほしい」とメニューの見直しを任される。客から「おいしい」と褒められることもある。この店にとって必要な存在になれていると感じる。

 でも時折、どうしても気になってしまう。自分が元受刑者だと知られたら、どうなるのだろうか……。

店長に抜擢、婚約も……

 料理の腕を磨き、すし店の店…

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