少年は悪夢のような光景を見た。やっと打ち明けた重い記憶。それが80年後、攻撃にさらされている。
昨年8月、中国東北地方・ハルビン郊外に立つ慰霊碑に手を合わせる小柄な日本人男性を、中国メディアが十重二十重に囲んだ。
「無謀なことをやってしまって、迷惑をかけてしまった」
「731部隊」の犯罪を、元隊員が証言――。
清水英男さん(95)=長野県宮田村=が碑の前で謝罪する様子は、翌日、中国の新聞各紙の1面を飾り、ニュースでも繰り返し流された。
そしてすぐに、日本のSNSは荒れた。
「ボケ老人」
「迷惑高齢者」
こうした誹謗(ひぼう)中傷を、何度も浴びてきた。
731部隊は、ハルビンに拠点を置いた日本軍の「細菌戦部隊」だ。清水さんは、その数少ない存命者。軍属である「少年隊員」の一人だった。
14歳の時、鮮烈な体験をした。
長野県の大工の家で生まれ、国民学校高等科を卒業する前、恩師から「満州(現在の中国東北部)で見習い技術員の働き口がある」と誘われた。
卒業後はどうせ兵隊だと思い、応じた。目的地も知らぬまま1945年3月、ハルビンに着いた。
731部隊
正式名称は関東軍防疫給水部。1936年に満州国(現・中国東北部)ハルビン郊外に置かれた旧日本軍の極秘部隊で、「細菌戦」を担った。中国人やロシア人捕虜らを「マルタ(丸太)」と呼んで細菌に感染させるといった人体実験を行い、多くの犠牲者を出した。
部隊に所属したのは、敗戦までの半年ほど。だが、7月に本部棟で見た光景を、今も夢に見る。
連れて行かれた「標本室」の棚にはガラス瓶が整然と並び、ホルマリン漬けの内臓や手足、頭部が浮かんでいた。
「『マルタ』を解剖したものだ」と上官は説明した。
マルタ(丸太)は、実験対象…