【連載】フロントランナーの試練 欧州気候危機 第1回
気候変動対策のフロントランナーとして世界をリードしてきた欧州。記録的な熱波に加え、洪水や砂漠化、山火事などが相次ぎ、住民の暮らしを根底から揺るがしています。危機的な試練に直面する欧州の今を伝えます。
畑の土をすくい上げると、砂浜のようにさらさらと指の間を落ちていった。東欧のルーマニア南西部オルテニア地方。スイカや小麦の畑の合間を縫うように砂地が広がる。
北海道とほぼ同じ緯度にありながら、干ばつと洪水の繰り返しで砂漠化した面積は約10万ヘクタールと、東京23区の2倍近くに及ぶ。今では「オルテニアのサハラ砂漠」とも呼ばれるほど、やせ細った大地が人々の暮らしを、故郷を奪っている。
7月2日、気温は33度。焼き付けるような日差しが照りつけるなか、農家のロベルト・サンドさん(25)は家族総出でスイカの収穫に追われていた。8月になると最高気温が連日40度近くに達し、スイカが白く腐ってしまうからだ。「昔は、せいぜい25度くらいだった気がするのに」
砂地の畑は、気温が40度近くになれば、地表の温度が70度にもなる。ここ数年、育てたスイカの4割は廃棄に。収入は毎年、3割ずつ減っている。
農業収入だけでは生活できず、2年前まで父親とともに英国で4年間、肉体労働などをして家族を支えた。今は美容師と農業を掛け持つことで、何とか家族が離ればなれにならずに暮らせているが、「この生活がいつまで続けられるか分からない」とこぼす。
ルーマニアでは、気候変動による砂漠化が進み、農地を手放して故郷を離れる人が増えています。記事後半では、15年間で広がった砂漠化の実態を衛星画像で検証。砂漠化にあらがう「苦肉の策」をお伝えします。
実際、サンドさんの友人の多…