ノーベル平和賞に選ばれた日本被団協。授賞式が12月10日にノルウェーのオスロであります。核兵器の非人道性を訴えてきた長年の証言活動が認められました。運動に大きな足跡を残した5人の被爆者たちの半生をたどります。
2016年5月27日。現職の米大統領として初めてオバマ氏が広島市を訪れ、平和記念公園で演説をした。原爆を投下した国の元首に被爆者は謝罪を求めるのか。世界中の注目が集まっていた。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の代表委員だった当時91歳の被爆者・坪井直さん(1925~2021年、96歳で死去)は、招待席の最前列で聞いていた。演説後に歩み寄ってきたオバマ氏を前に、坪井さんは杖をついて立ち上がり、右手を差し出して握手をした。
「よう来てくださいました」。口にしたのは、感謝の言葉だった。
中学時代から核廃絶運動に取り組む当時高校1年生の高橋悠太さん(24)はテレビ中継で一部始終を見ていた。その2日後の坪井さんとの電話のやりとりが、いまも忘れられないという。
「アメリカへの憎しみはないんですか?」
率直に聞いた高橋さんに、坪井さんは答えた。
「そりゃ、腹の底にはようけあるよ」
そして、こう続けた。
「けど、乗り越えないかん。それは人類の幸せを願うからだ」
2カ月前、学校の部活動で仲…