【ニュートンから】人体と機械は融合できるか(2)
事故や病気,老化によって失ったり衰えたりした身体機能を補う器具の開発は,昔から行われてきた。たとえば,マイクで集音した音を増幅させて耳の小型スピーカーから流す補聴器や,血液から老廃物や余分な水分を濾過器などで取り除いて浄化してふたたび体内にもどす人工透析,電気刺激によって心臓の拍動をうながすペースメーカーなどがある。
これら以外にも,失われた身体を機械で補う技術の研究開発はさかんに行われている。ここでは,そのなかでも最新の研究開発事例を紹介しよう。
人工心臓で100日間生存
人工心臓は,重症心不全患者が心臓移植手術を待つ間などに装着し,病状の悪化による苦しさを軽減するのに役立っている。患者の心臓を取り除き,完全に機械の心臓と置きかえるタイプを「完全置換型人工心臓(TAH)」という。最新の事例では,オーストラリアの40代の男性がチタン製のTAHを装着し,心臓移植手術を受ける2025年3月まで約100日間生存したことが報告されている。これは,人工心臓によって生命を維持した最長の記録だ。しかも,人工心臓を装着したまま一時的な退院もできた。この装置は,劣化しやすい弁や機械式の軸受を使わずに,磁石で固定された浮上ローター(回転体)を可動部品として使っている。まだ試験段階だが,一般的に使えるようになれば重症患者の選択肢をふやせると期待される。
人工網膜で視力が回復
視覚を機械で取りもどす技術も開発されつつある。アメリカ,Science社は2024年に,「加齢黄斑変性症」とよばれる病気によって失明した人が「人工網膜」を埋めこむことで,文字や人の顔を認識できるようになったと公表した。
人工網膜のしくみを説明しよ…