#3 【トラウマ】が追い込むのは
「テロを実行する恐れのある人物はオリンピックに近づかせない」
セーヌ川を舞台に、夏の五輪史上初めて競技場外で実施される開会式が迫っていた昨年7月17日。当時のダルマナン内相はイスラム過激派思想との結びつきが疑われる155人を「MICAS(ミカス)」と呼ばれる自宅軟禁措置の対象にしたと明らかにした。
2015年に130人が犠牲となるパリ同時多発テロ事件が起きるなど、フランスではイスラム過激派思想を背景とするテロが相次いできた。政府にとって「テロとの闘い」は今も最重要の課題になっている。
【連載】移民・難民と世界 ー危機とジレンマの欧州ー
寛容か排斥か――。10年前の「難民危機」は、人権を重んじる欧州の価値観と、あるべき姿を激しく揺さぶった。統合、右翼、理念、トラウマ、ジレンマ、そして幻想。キーワードをもとに、欧州のいまを追う。
ミカスは本来、非常事態宣言下でしか認められない措置だったが、17年に改正されたテロ対策法で平時での運用が可能になった。措置の対象になれば自宅付近から離れることを禁じられ、毎日警察署に出頭することが義務づけられる。
フランスで生まれ育ったモロッコ系移民2世の大学院生、アミンさん(22)が暮らすパリ郊外のアパートに警察官7人が訪ねてきたのは、五輪の開催を約3カ月後に控えた昨年4月16日早朝のことだった。スマートフォンとパソコンを押収され、警察署に連行された。
あるSNSのアカウントを見せられた。人の首を切断する動画に、「フランスでテロを起こしたい」とのコメントが付いていた。
プロフィル欄には、TikT…